ハヤブサ消防団 [book] [池井戸潤]
半沢直樹 アルルカンと道化師 [book] [池井戸潤]
シリーズ第一作「オレたちバブル入行組」の前日譚
東京中央銀行大阪西支店融資課長・半沢直樹のもとに老舗美術出版社・仙波工藝社を新興IT企業・ジャッカルが買収したいと言う話が持ち込まれる。業績不振の仙波工藝社、2億円のつなぎ資金を半沢にお願いしている最中だった。
折しも東京中央銀行は頭取の旗振りのもと、全社?M&Aの推進中・・・
支店長の浅野以下営業本部、審査部ともこの買収話に大乗り気だが、半沢は仙波工藝社の立場にたって、この案件に反対の意を表す。
行内に軋轢を生みながら融資を実行すべく奔走する。やがて、絵画を巡る秘められた謎が浮かび上がる・・・江戸川乱歩賞作家らしい絵画ミステリー?
現在放送中、TBS、「半沢直樹」では本社営業部第二部の次長として帝国航空の再建に挑み、巨悪が潜む政治の世界に足を踏み入れ奮闘する姿が放映中。先週、「1000倍返し」の名言まで飛び出し、今週、9月27日に最終回を迎える。
ついつい、そのイメージを引きづりながら読み進む。「やったらやり返す」、「やったら倍返し」は、今思えば、1000倍返しに比べたら、ささやかなものだ!
前回のドラマで浅野支店長を演じたのは「石丸幹二」、本書もそのイメージで・・・
読売新聞のインタビューで、原点回帰した半沢はどこへ向かうのか。池井戸にもわからない。ただ、頭取や社長にすることは考えていない。組織の中で弱い立場の中間管理職だから面白い。
ドラマの名ぜりふになぞらえれば、半沢の反骨精神が、「おしまいdeath」には決してならない。
追伸:本書のもうひとつの鍵を握るキーパーソンが、立売堀(いたちぼり)製鉄の会長、本居竹清。たたきあげの大阪商人・・・
ノーサイド・ゲーム [book] [池井戸潤]
ラグビーワールドカップ9/20開幕
大手自動車メーカー・トキワ自動車の経営戦略室・君嶋隼人、エリート社員、は大型買収案件に真っ向から意義を唱えた?為、横浜工場総務部長に左遷された上、ズブの素人にもかかわらずラグビー部アストロズのGMを兼務することになった。
年間16億円もの活動費を喰うアストロズ、かつては強豪だったが最近は鳴かず飛ばず、巨額の赤字を垂れ流していた。
経営戦略的な視点から君嶋が会社としてのお荷物集団?アストロズの再建に挑む!
MLB、オークランド・アスレチックスのGM・ビリー・ビーン(「マネー・ボール」の主人公)的かと思いきや、日本のトップ・リーグをしっかり取材、その問題点を浮き彫りにしながら、社内のパワーバランスを巧みに織り交ぜたエンターテインメントになっている。
だた残念なのは、同じスポートものの「陸王」では強力な大手メーカーに立ち向かう零細企業「こはぜ屋」、小よく大を制すという構図が小気味さを生んだが、本書にそれはない。残念!?
ラグビーワールドカップ開催を控えた旬な題材とTBS日曜劇場が合体した原作本。
下町ロケット ヤタガラス [book] [池井戸潤]
「宇宙から大地へ」下巻
10月14日、TBS日曜劇場にて「下町ロケット」スタート
帝国重工内でうごめく不穏な動き。財前の打ち出した「無人農業ロボットに関する新規事業」の企画提案を横取り?する的場役員。一方、その的場に復讐を誓った、重田、ダイダロスと伊丹、ギアゴースト、がぶち上げた無人農業ロボット計画。
奇しくも同じ土俵で佃製作所&帝国重工vs.ダイダロス&ギアゴーストの戦いが始まる。
帝国重工の社内力学に翻弄されながらも、財前と共に無人ロボットのエンジン、トランスミッション開発に真摯に取り組む佃たち。一方、復讐に燃えるふたりは産学連携ビジネスで不正に取得したノウハウを持つ会社を加え、帝国重工に挑みかかる。
構図がはっきりしてくれば、池井戸節全開!
副題のヤタガラスとは、財前の最後の仕事で打ち上げた「準天頂衛星」のこと。この成功により測位精度があがり誤差3センチ以下になった。このことが無人農業ロボット開発を協力に後押しすることになる。
10月14日から熱い熱い佃社長、阿部ちゃん、を見れると思うと今から愉しみだ!
下町ロケット ゴースト [book] [池井戸潤]
シリーズ第三弾
今秋10月スタートのTBS日曜劇場「下町ロケット」の原作本
業績不振に喘ぐ帝国重工、社長交代が囁かれると共に、今後の「スターダスト計画」にも暗雲が漂う。当然、佃製作所にもその影響がひたひたと・・・それに加え、大手農機具メーカーに供給している小型エンジンの削減を言い渡される。性能よりコスト!?
佃製作所の次なる一手は、ベンチャー、ギアゴーストが製作するトランスミッションのバルブ供給。試行錯誤の上ハイスペック過ぎず、コストも計算されたバルブのコンペを勝ち取る佃製作所。ところがギアゴーストに特許侵害疑惑が・・・
ギアゴーストに力を貸すことを決める佃、前回の裁判で辣腕ぶりを発揮した神谷弁護士も登場、特許侵害訴訟をどう切り抜け、新しいサスペンション用バルブを供給することが出来るのか?
本書が上巻、今秋刊行予定の「下町ロケット ヤタガラス」が下巻、巻末の予告には、佃製作所vs.ダイヤクロス&ギアゴーストの戦い・・・帝国重工への復讐戦に佃製作所はどう立ち向かうのか?
前作同様すべてはTBSドラマに向けて始動しているということですね!?
空飛ぶタイヤ [book] [池井戸潤]
2018年映画化
2002年横浜で起きたタイヤ脱落死傷事故、母親は亡くなり子供たちは軽傷、を題材にした一冊。
事故を起こしたのは三菱ふそうのトレーラー・トラック。三菱側は運送会社の整備不良で事件を片づけた。
池井戸小説ではたびたび登場する中小企業、「赤松運送」の二代目社長、赤松徳郎、映画ではTOKIOの長瀬君、それに対する大企業「ホープ自動車」、物語のキーマンのひとり販売部課長、沢田、ディーン・フジオカ、の対決から物語は始まる。
事故の影響で大手取引先から仕事を切られ、倒産の危機を迎える赤松運送。自社の定期点検では何も問題がなかったことを信じホープ自動車に立ち向かう赤松。
中小企業vs大企業の構図に加えてこちらも必ず登場する銀行団、ホープグループの「ホープ銀行」、業績不振を縦に貸し剥がしに出る悪役。それを助ける「はるな銀行」。
ホープ自動車では過去にもあったリコール隠し事件、本質的な部分で隠蔽体質は現在も続いており、今回もまた・・・
赤松の執念の調査が少しずつ実を結び、警察を動かすところまで来たが、決定的な証拠が出てこない。その窮地を救ったのは意外な人物!?
本書の刊行は2006年、その当時三菱自動車が日産自動車の傘下に入ること、東芝によるウェスチングハウス買収が本業の足を引っ張ることを誰が予測しただろうか。池井戸潤は本書のなかでそれを予測していた!?
今回もまた一気読みでした。
アキラとあきら [book] [池井戸潤]
幻の長編、書籍化!
ふたりの彬、瑛。彬は大手海運会社の御曹司、もうひとりの瑛は零細工場の息子。ふたりの接点は小学校のころにあったがお互いに覚えているのだろうか?
バブル経済の真っただ中、彬は父親の経営する海運会社を継がず、瑛は父親が会社を潰したことを動機に産業中央銀行に同期入行する。ふたりの彬、瑛は新人研修で伝説となるほど秀いでていた。
ふたりの人生の岐路は、弟がふたりの叔父にそそのかされ海運会社の社長に就任、叔父たちのホテル建設の連帯保証を差し入れたことからダッチロールが始まる。
バブル崩壊、海運会社のかじ取りを間違えた弟、苦渋の選択で彬が社長に就任、景気後退は加速度を増すまかり。ホテルは営業を開始したものの赤字のたれ流し、叔父たちの会社もホテル開業にあてた資金回収がままならず本業にも大きな影を落とす。彬の海運会社も組織疲労による売上ダウン・・・
このままでは共倒れの危機、産業中央銀行の瑛が書いた稟議、「会社にカネを貸すのではなく、人に貸す」、とは?
さすが元バンカー、著者自らが書いたことがあるような?稟議でした。700頁超の長編、一気読み間違いなしの池井戸・エンタメ小説です!
陸王 [book] [池井戸潤]
池井戸潤/集英社/お薦め度 ★★★★☆
池井戸ワールド全開!
足袋作り100年の老舗、「こはぜ屋」、ライフスタイルの変化に足袋の需要は年々先細り、四代目社長、宮沢紘一は資金繰りにも汲々する有様。
ある日、得意先百貨店の売場で見た5本指のランニングシューズ、「こはぜ屋」の主力商品は足袋と地下足袋、灯台もと暗しとはこのこと、自社で素足感覚のランニングシューズのプロジェクトを立ち上げる。
ここから沢山の人との出会いが・・・頁をめくる手が止まらない。
ランニングのことを教えてくれたスポーツショップ経営者、改良型の地下足袋を採用してくれた学校、故障中の箱根駅伝のスター、一目おかれるシューズフィッター、死蔵特許を持つ元経営者、元融資担当者・・・
ヒールは大手シューズメーカーの日本支社の部長。アリとゾウの戦いに勝機はあるのか!?
500頁超の長編にもかかわらず一気読み、読了後の清々しさは半端ないものでした!
シャイロックの子供たち [book] [池井戸潤]
池井戸潤/文藝春秋/お薦め度 ★★★★
連作短編?長編?
「七つの会議」のあとがきに、本書は「シャイロックの子供たち」の進化形、と。ならばと手にする。
東京第一銀行長原支店を舞台にした群像劇ミステリー。確かに「七つの会議」の源流。
池井戸潤は元々バンカーだから銀行内外のことについては精通しているのは当たり前。そのバンカーをシャイロック、「ヴェニスの商人」に登場する強欲な金貸し、の子供たちと皮肉る?とは・・・
銀行は確かに強欲な金貸し業かもしれない。強欲な組織における強欲な人間、出世争い、自己保信、評価・・・、と彼らにロックオンされた人間と家族の群像劇。
池井戸流クライム・ノベル。「七つの会議」の文庫化にあたり八つ目の会議を加筆、読了感をスッキリ・アップ。本書の結末がちょっと思わせぶりだったことへの反省か!?
「七つの会議」同様、一気読みの一冊。
七つの会議 [book] [池井戸潤]
池井戸潤/集英社/お薦め度 ★★★★
クライム・ノベル
コンプライアンス違反、最近の事例で言えば東芝、東洋ゴム、旭化成の子会社・・・枚挙にいとまがない。違反をした企業は法的責任、信用失墜、売上低下などの社会的責任を負う。企業の犯す「企業犯罪」のひとつ。発覚した場合不祥事として報道される。
「七つの会議」ならぬ「八つの会議」、八編の連作。きっかけはトップセールスマンでエリート課長のパワハラ、訴えたのは50歳の万年係長・・・役員会が下した結論は「人事部付け」!
不可解な結論、エリート課長の更迭・・・次第に会社が抱える闇が明かされる。
クライム・ノベルとは犯罪小説、企業の犯す犯罪を取り上げた本書もクライム・ノベルのひとつ。そこは池井戸潤、それぞれの登場人物の家族、生い立ち等を描き、社内のパワーバランス、出世争い、サラリーマンの悲哀と対比させている。
八角が最後に「虚栄の繁栄か、真実の清貧か」、本書を象徴している言葉だ!
流石、江戸川乱歩賞受賞作家のエンターテインメント小説!一気読みでした。