百器徒然袋-風 [book] [京極夏彦]
薔薇十字探偵・榎木津礼二郎、連作短編集
神田、薔薇十字探偵社。探偵、榎木津礼二郎。非凡・無礼。傍若無人・天衣無縫・傲岸不遜。それでいて眉目秀麗・裕福。頭脳明晰かどうか判断出来ぬところだが、即断即決即行動の人である。
理解不能・非常識。大体において何をいっているのか善く判らない。状態は常に狂躁的で、言語は常に痙攣的である。しかも榎木津にとって他者と云うのは概ね三種類しかない。敵か。下僕か。どうでもいい人間かである。
事件の最後だけ登場するなんとも京極的?な探偵だ!まわりの配役も京極的・・・肩の凝らない、愉しめる一冊。
巷説百物語 [book] [京極夏彦]
第百三十回 直木賞受賞作
矢作剣之進-旧幕時代は南町奉行所見習同心、現在は出来たばかりの東京警視庁一等巡査。
笹村与次郎-元は西国小藩、北林藩の江戸詰め藩士、今は加納商事なる貿易会社に奉職。
倉田正馬-旗本の次男坊、徳川方の重臣を父に持つ箱入り息子、しかも洋行帰りというハイカラ。
渋谷惣兵衛-与次郎同様北林藩の出身、山岡鉄舟に剣の手解きを受けたという豪傑で、維新後は町道場を開いている。
一白翁-薬研堀界隈に九十九庵なる閑居を構える老人。
小夜-一白翁の身の回り世話をする遠縁の娘。
時代は江戸から明治へ。以上の人物が登場する連作短編集。
見事なまでの形式美(物語の進行をフォーマットしている。そういう意味での形式美)。怪を語って俗(現世)が暴きださす。書き手としては結構辛いことだと思うが、京極自身が結構たのしんでいたりして・・・
死ねばいいのに [book] [京極夏彦]
京極夏彦/講談社/お薦め度 ★★★★☆
京極風「吉原手引草」
読み始めてすぐ、松井今朝子の「吉原手引草」を思い出した
連作短編の形をとりながらどんど核心に迫っていくプロットは著者の十八番。形式美を大事にした語りで・・・
京極ワールドを読んで「巧い」と思ったことは一度もないが、本書は「巧い」のひと言。
主人公の言葉づかいをなんでいまどきの若者言葉で書いたのか。会話がなかなか成立しない様を際立たせたかったのか。ギャップの中から出てくるひと言、「死ねばいいのに」、が響く。京極の罠!?
前巷説百物語 [book] [京極夏彦]
京極夏彦/角川書店/お薦め度 ★★★★
妖怪時代小説
連作短編集ですが、それぞれ起承転結が「韻」を踏んでいるので非常に読みやすくなっていることが特徴のひとつです。主人公・又市の成長記、いかに御用となりしか!!
TBSの長寿番組「水戸黄門」は、歌舞伎的な構成がドラマの安定感を生むと同時に、視聴者もそれを期待してしまう、特に「この印籠が目に入らぬか」、不思議な特徴をもっています。本書も同様に、しっかりした起承転結がドラマ割りされ、物語の安定感を生んでいます。それもすべての章に言えます。書き手がその方が楽なのかもしれませんが、読み手もそれを期待していることでは水戸黄門と一緒です。
ついつい毛嫌いしてしまうそうな物語に見えますが、中身は決してそうではありません。
邪魅の雫 [book] [京極夏彦]
京極夏彦/講談社/お薦め度★★★
わたし的には少々長過ぎた!?
京極ファンじゃない私でも、直木賞受賞作「後巷説百物語」は愉しめた一冊だった。
昭和二十八年、江戸川、大磯、平塚と続く毒殺殺人。榎木津のお見合い相手が絡んでいることから、関口君、益田君、京極堂が事件解決に乗り込むはめになる。事件はいつしか点が線としてつながっていく。
ファンじゃないわたし的には少々辛いページが多すぎました。ファンにはたまらないページだったかもしれませんが・・・
昭和二十八年という時代設定、戦後の動乱から少し落ち着きを取り戻した、をもっと大事にした物語だったらよかったのに!?