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やっと訪れた春に [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/祥伝社/お薦め度 ★★★★☆

唸る青山節

代が替わるごとに、岩杉能登守を名乗る家が入れ替わる。岩杉本家と分家の田島岩杉家である。だから近習目付も二人いる。十一代藩主には長沢圭史が、十二代になるはずだった当主には団藤匠が近侍していた。

だが、十二代藩主の急逝、直系男子にあたる者は、今年七十八歳になる祖父しかいない。服忌があけると祖父は今後、田島岩杉家出身の者が藩主に就くことを遠慮したい旨の願いを提出した。

これにより、五代から百八十年に亘って続いてきた橋倉藩の藩主交代は終わりを告げた。

加齢による身体の衰えを感じていた圭史は致仕願いを出す。いまならば、近習目付は一人、匠だけ、でもなんとかなる、と・・・

そんな矢先、遠慮願いを出した田島岩杉家の当主が暗殺される。やっと訪れる春を楽しみにしていた圭史は独自に捜査を始める。

物語の肝は「鉢花衆」、「御成敗」のとき、四代藩主に率いられて「鉢花」で剣を振るった十数名の剣士。その末裔を、いつの頃から「鉢花衆」と呼ぶようになった。この国を造ったとも言える「鉢花衆」だが、いまでは残っている者も少ない。長沢と団藤と、もう一家張るはずだが、定かではない・・・

橋倉藩を支えた表と裏の矜持がぶつかり合う。


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底惚れ [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/徳間書店/お薦め度 ★★★★☆

「江戸染まぬ」の続き

「江戸染まぬ」で俺の想いと芳の想いが結末で違え、芳に刺される。金創医、戦さ場で刀疵なんかを手当てしてきた医者、のお陰で一ヶ月で江戸に戻れた。その間の治療代とお礼は芳が置いて行った小判で賄えた。

江戸に戻った俺は芳の里へ行ってみたが、そこには芳の姿はなかった。それならひと悶着起こせば世間が騒ぎ、芳に知れるのではないかと考えるがなかなか実行に移せない。

そのうち女郎になって岡場所にいると思うようになる。入江町の千三百人の女郎を当たることにする。そんな折り、路地番の頭、銀次に出会い俺の運命は変わる。

銀次の計らいで俺が女郎屋を営むことに・・・女郎にやさしい?素人経営者として。噂はたちまち広がるが芳はいまだ見つからない。芳と一緒に働いていた下女、信の力を借り、ビジネスはどんどんどんどん拡大する。

芳の行方を待ち続ける俺に銀次が刺されの一報が・・・いまわの際に銀次が漏らしたことが、俺と芳と信の想いをひとつにする。

俺、芳、銀次、信の四人の登場人物しかいないが違えた想いが繋がる濃厚な物語はさすが青山文平だ。誰が誰に底惚れ?


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跳ぶ男 [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★★

傑作

弱小藩、藤戸藩、のお抱え道具役(能役者)の長男、屋島剛、十五歳、切り立った岩の上、石舞台、で独り稽古を積む・・・

三つ歳上の同じ能役者の息子、岩船保、幼き頃から英才の誉れ高く、十七歳にして藩校の長を務める。その保が刃傷沙汰を起こし切腹を命じられたことから剛の運命が急変する。

わずか十六歳で急逝した藩主の身代わりを務め、能を武器に細い糸を縒ってその紐を組む企ての要に据えられてしまう。

保の志「この国をちゃんとした墓参りができる国にする」と保の遺した三つの言葉ー素晴らしい役者。想いもよらぬことをやる。うらやましいーの行方を見届けるために役目を演じる。

与えられた期間は七ヶ月。これぞまさにミッション・インポッシブルだ。

ラストの「想いもよらぬこと」にあっぱれ!!!



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江戸染まぬ [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

全七編収録の短編集

表題の「江戸染まぬ」が捻りが効いている。

一季奉公の俺、相模国の里に戻る女、芳の御伴で、こいつはちっとばかりどころかたいそう訳ありだ。

屋敷の「老公」は若い。うんと若い。なんと二十一だ。殿様を退いたのは二年前だから、老公になったのは十九歳だった。いまどき借金で首が回らない大名なんてめずらしくねぇが、十九の殿様を御老公にして、余所の大名家の次男坊だか三男坊だかを新しい殿様に据えた。持参金で急場を凌ごうとしたわけさ。

二十一だって御老公だ、奥方は迎えられねえ。で、下女の一季奉公してた三つ歳上の芳がとりあえず御相手を務めることになった。芳と老公はしっくりいって昨年の秋には子供もできた。男の子だ。同じ頃、三十過ぎの殿様にも子が生まれてね、けど、そっちは女の子だった。芳の子は血筋で言やあずっとつづいてきた大名家の血を引くわけだから、十分に火種になるってことだろう。で、芳は宿下がりって始末になった。

道中、俺は中番屋にこの話を売って、その銭をお芳の餞別にしようと思うようになった。一方、芳は里に戻ったら、もう、ずっと行けない、一度っきりでいいから、「えのしま」にお参りしに行きたい、と。

俺の想いと芳の想いが最後に違える結末は・・・「つまをまとらば」以来の短編集。巧いとうなってしまう。



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泳ぐ者 [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/新潮社/お薦め度 ★★★★

シリーズ第二弾

ふたつの”なぜ”を追う徒目付、片岡直人。

ひとつめの”なぜ”は、六十五歳の隠居した武家、重い病を得ていたにもかかわらず、六十歳の妻を離縁、理由は「同じ墓に入りたくなかった」というもの。離縁より三年半、重篤になった元夫を手にかけた・・・

ふたつめの”なぜ”は、古手屋がうまく回らない、にっちもさっちも行かなくなり、霊験あらたかと評判の神様を紹介され、その神が申されるには。駒形堂と対岸を泳いで往復すれば運気が変わる、と。人騒がせと思ったが十月朔日より願掛け、後二日・・・

第一弾の「半席」と違い闇が色濃くうつる。”なぜ”の闇が深いということか・・・

シリーズ化されたということは第三弾も期待していいということ!?


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励み場 [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/角川春樹事務所/お薦め度 ★★★★

直木賞受賞後、第一長編!

名子:江戸時代以前は全国いたる処に武家の領主がいて、争っていた。その争いの時代が終ったときに、大名として勝ち残った者以外の領主たちは大名の家臣となって領地をあきらめるか、武家の身分より領地をとって百姓になるか選択を迫られた。領地をとって土着した、その昔の領主の家臣が名子。

150年近く経った延亨の世では、名主と名子に武家を重ねるものなどいないし、一般の農民より一段低く見られていた。

名子から武家に身上がろうとする笹森信郎、名子は名子でもちゃんとおした名子?の智恵、江戸に出て三年、未だ身あがっていない。そんな折り、上司の直々の命により上本条村にひとり出向く。そこで出逢った名主久松家の当主、身代をなげうって飢饉から農民を救った、真実を吐露され己の本来の励み場、己の持てる力のすべてを注ぎこむのに足りる場処、を見出す信郎・・・

智恵をめぐる姉、多喜、父、理兵衛の家族愛、同じ名子同士?の夫婦愛、真の励み場を見つけた信郎の決断・・・心にしみる一冊、青山文平の語りが冴えわたる!

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遠縁の女 [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

短編集

三編収録、そのどれもが「女」が鍵を握る。

時代は著者が得意とする、武士が武士らしく生きぬくことが難しい時代。

「機織る武家」、血のつながらない三人、義母、入り婿、後妻、武家として生き抜くことが出来ない内証、後妻は昔取った杵柄で機を織る・・・

「沼尻新田」、否応ながら新田開発を父から命じられ、実地検分に訪れた先でひとりの娘に出会う・・・

「遠縁の女」、時代遅れな武者修行に出させられた男、父の急逝で五年振りに帰国。出立前に気にかかっていた遠縁の女から投げかけられた謎の言葉・・・

「機織る武家」は後家の心に引っかかっていたものが解けるラストがいい・・・「沼尻新田」は新田開発の真の目的がいい・・・「遠縁の女」は女の投げた罠?に捻りが効いてていい・・・青山ワールドがいい!

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鬼はもとより [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/徳間書店/お薦め度 ★★★★

直木賞候補作

藩札掛を命じられたはみ出し者、奥脇抄一郎、いつしか藩札の仕組みに魅入られ、命を賭けるに値するお勤めと心得るようになる。藩の財政が一段とひっ迫するなか、藩札の十割刷り増しを命じられる。藩の経済実態にそぐわない命、抄一郎は版木を持って欠け落ちた。

欠け落ちた先は江戸、万年青を栽培しながら売り歩く浪人、その裏で藩札反行指南を生業にしていた。今でいうフリーのコンサルタント・・・

自藩での失敗を鑑みた新しい仕法は、最初に相談のあった東北の最貧小藩で実施することに決め、実際にこの目で確かめるべく東北へ赴く。

御主法換えを率いる執政、梶原清明と現況の輪郭を掴んだ抄一郎は、いきなり本題に入った。小藩の問題は貧しさゆえの優しさ、責めを問わないし、負わないだった。それを踏まえ四つの仕法を説く。

清明は早速行動を起こす。責めを問わない、負わないの象徴、前筆頭家老、父親、に切腹を命じると共に、自ら鬼となって粛清を断行していく。

果たして抄一郎の指南は実を結ぶのか!?

時代小説には珍しい経済政策の話を軸に、「武士とは死ぬことと見つけたり」を体現した男の物語。

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白樫の樹の下で [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

松本清張賞受賞作

時は天明、江戸幕府が開かれて百八十年余り、各藩とも財政ひっ迫、戦のない、武士が武士らしく生き抜くことが難しい時代。貧乏御家人は傘張りなどの内職で糊口を凌ぐ。

世間受けする竹刀による乱取りには目もくれず、木刀の形稽古を黙々と続ける貧乏御家人の三人、村上登、青木昇平、仁志兵輔、昇平はひょんなことから浪人を切り、それがきっかけで出仕した。

登が蝋燭屋の三男坊、後に武家となる、から一口の名刀を預かったことから物語が動き出す。

辻斬りを捕らえることで出仕しようとする兵輔、兵輔の妹にひかれる登、妹を昇平の嫁にと思う兵輔・・・登の周りで蝋燭屋の三男坊、兵輔の妹が斬殺される。辻斬りの仕業!?

結末で二度、名刀を抜くことになる登、誰に?何のために?

いつもの青山ワールドと趣を異にする一冊。

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つまをめとらば [book] [青山文平]

sample1.jpg青山文平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

直木賞受賞作

六編収録の短編集

元禄から百年、武士が武士として生き抜くことが難しくなった時代、人生に戸惑う男たちをしり目に、生き生きと生き抜く女たちが躍動する。

表題の「つまをめとらば」、幼馴染の貞次郎と10年振りの再会、屋敷の庭にある家作を貸してほしいと頼まれ、話はとんとん拍子にすすむ。この歳、56歳、になって所帯を持とうというのが理由だった。

しかし、所帯をもとうという女はいっこうに来ない・・・

貞次郎との空白の時間をお互いに語るなか、40代のころ下女の奉公に来た佐世、童女の顔にはちきれんばかりの身体、と貞次郎が一時噂になったことはさすがに聞けなかった。

ふたりの穏やかな生活が進む中、行方知れずだった佐世が味噌を売りに来る。以前の身体は肉と脂ではちきれそうだった。貞次郎も味噌を売りつけられ、昔話をしたようだった。

女とはたいしたものだ、どうやってもかなわない!貞次郎は家作を出て女に死に水をとってもらうことを決意する。

ふたりの味のある会話が実にいい、青山ワールド全開!



タグ:直木賞
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