内なる殺人者 [book] [ジム・トンプスン]
最高傑作!?
「このミステリーがすごい!2001年度版」宝島社、海外編第一位作品、「ポップ1280」に続く復刊。1952年の作品。
「ポップ1280」の時にも書いたが癖になりそうな作品。セロニアス・モンク(ジャズ・ピアニスト)のタッチに酷似している。
独特の間の取り方、この間が心地よい・・・
主人公のルー・フォードは銃も棍棒も武器はいっさい携帯していない保安官補。町の実力者で建設業者のコンウェイ。
フォードは義兄がコンウェイに殺されたと確信し、その死がもとで父親はショック死したと恨みに思い、コンウェルに復讐心を抱く。そのチャンスは町から出て行くように勧告した売春婦を利用して復讐を果たすが、そのために嘘に嘘を重ね、殺人に殺人をかさねていくようになる。
フォードの中に巣食う悪の魂、つじつま合わせの嘘・行動・・・現代ならサイコサスペンスなのだろうが、50年代という時代、ゆっくりと流れた時代、が独特の新鮮な間を生みだし、それが再度、現代人に受けている要素ではないだろうか。
ノワール小説はもともとフランスのハードボイルドを指す言葉だったが、いつしか暗黒小説という風に訳されるようになった。その旗頭の一人がジム・トンプソンである。
1950代、60年代に著者の作品は集中している。アメリカ出身(オクラホマ州)の作家でありながら、自国ではなくフランスで高く評価された(その取り上げ方でノワール小説と言われようになる)。フランス人は次々に殺人を繰り返す悪の権化、アメリカの暴力、呪われた魂を描いたものが好みらしい・・・
わたしも好みなので、次なる復刊を期待したい。
取るに足りない殺人 [book] [ジム・トンプスン]
pulp noir
なんと!本書は1949年の作品・・・
ジム・トンプスンとは、「ポップ1280」で2001年度版「このミス・・・」海外篇、ナンバー1に輝いた時からのお付き合い。「死ぬほどいい女」、「深夜のベルボーイ」、「アフター・ダーク」、「内なる殺人者」と扶桑社のお陰で・・・
「ゲッタウェイ」は、サム・ペキンパー監督、スティーブ・マックィーン、アリ・マグロー主演、ジム・トンプスンの原作、知ってましたか?
銀行強盗をしたマッコイは、ギャングに渡すはずの金を持って逃走。彼を追うギャングをかわしながら、マッコイは妻と共にメキシコをめざす。スリリングなチェイスが全編に渡って展開されるサム・ペキンパー監督の代表作。
清楚なアリ・マグローとカーチェイスが記憶に残っています。本書の書評と全然関係なかったですね!でも★★★★☆ですぞ!
死ぬほどいい女 [book] [ジム・トンプスン]
はまってしまいます!
このテンポ、この語り口、この展開・・・なんともいえない心地よさ?さすがジム・トンプスン・・・
どうしよもない訪問販売員、フランク・ディロン。月賦の取り立てでなんとか食いつないでいる始末。とある訪問先で、女に出会う。彼女の名前はモナ。伯母に売春まがいのことをやらされている女。その体は焼けた鉄棒でつけられたようなみみず腫れがあった。
モナはなんてかわいい子なのだろうと思い、自分は古女房・ジョイスのような性悪女ではなく、なぜモナと結婚しなかったのか!?
家に帰り、上着と帽子を脱いだ。何ひとつまともじゃない。どっちを見ても、散らかり放題でごみがたまっている。これまでにないみごとな左フックでジョイスはバスタブにはまりこんだ。スーツケースを車に積み、町を出た。二、三時間つぶし、家に戻った。女房はいなくなっていた。寝室の窓はいっぱいに開けられ、雨がベッドを水びたしにしていた。おれの服は?おれにはもう服はなかった。
モナはばあさんがどこに金を隠しているか知っていた。そこでおれを留置場から出すのに必要な額と、今ここに持ってきた分の金をくすねた。さっきまで重窃盗容疑で勾留されていた、このおれとふたりで逃げて、末永く幸せに暮らせるというわけだ。
きみはなにもしなくていい。ただ、おれが持っていけるように金の用意をしておいて、おれが出て行ったあとで警察を呼ぶだけでいい。
物語はトンプスン的に、粗暴、無計画、行き当たりばったりに進められ、急降下するように破滅の道を落ちてゆく。
この安定を失って行く過程のテンポ、語り口、物語にはまってしまうひとりの自分が存在する。いらいらすような心地よさ・・・
原題は”a hell of a woman"直訳すると”すげえ女”、”ものすごい女”、だれが死ぬほどいい女なのか!?
ポップ1280 [book] [ジム・トンプスン]
グリフターズ [book] [ジム・トンプスン]
ジム・トンプスン/扶桑社/お薦め度★★★★
1991年の復刻版?
「grifters」、意訳をすれば「三人の詐欺師たち」。三人とは、詐欺師、セールスマンのロイ。ロイの愛人、モイラ。ロイの母親、私設馬券屋に携わるリリィ。
三人の間で繰り広げられる、愛憎劇、欲望劇、悲劇・・・ラストのリリィがすべてを象徴している。
リリィは笑い声をあげ、床の上の物体に、嘲るような視線を投げると、
「ほら、ガキんちょ、たかが喉首ひとつだろ・・・」
それから、部屋を、ホテルを出て、”天使の街 LA”へと踏み出した。
映像的にはこれ以上ないくらいのラストシーン。ついつい「俺たちに明日はない」を思い出してしまう。ノワールとニューシネマ、とてもいい組み合わせではないか!?
失われた男 [book] [ジム・トンプスン]
ジム・トンプスン/扶桑社/お薦め度★★★★
元祖ノワール
本書に続き、「グリフターズ」も扶桑社から刊行され、ジム・トンプスン人気再来!?
読了したトンプスン作品に「ダルマ落とし」的なものがあっただろうか? 記憶にない! そういう意味では新感覚の作品。
連続女性殺害殺人の犯人、新聞社社員のブラウニー、の手記。なんとなく最後の最後で事件の全貌がはっきりするのかなと思って読み進む。だぶんみなさんもそうだろう・・・!?
ブラウニーの犯行はいつものトンプスン的ノワール、ところが最後の最後に「ダルマ落とし」、「え、え、えー」、「これでいいの?」となってしまう。扶桑社に感謝しながら、「グリフターズ」へ。
深夜のベルボーイ [book] [ジム・トンプスン]
ジム・トンプスン/扶桑社/お薦め度★★★★
1964年刊行の「ポップ1280」を手にして以来、虜に?なってしまった。「内なる殺人者」、「「残酷な夜」、「死ぬほどいい女」、「アフター・ダーク」・・・それに本書。
サム・ペキンパー監督の「ゲッタウェイ」(スティーブ・マックィーン, アリ・マッグロー主演)ほか結構映画化されていたりして・・・確かにお手ごろな読み物なんだけれど、ひとたびとりつかれてしまうとわたし的現象に陥ってしまう。
大学に通うことをあきらめ、あることで失職した病弱な父親の面倒をみながら、深夜のベルボーイとして働くダスティ。
夢をなくし、くたびれた生活を一変させる出来事が、蒸し暑い夏の夜起きる。事件の発端は深夜にあらわれた絶世の美人!そこからダスティの奈落?が始まる。
クライム・ノベルというのか、ノワールというのか、暗黒小説というのか・・・独特のテンポ、これでもかと奈落の底につき落とされる主人公・・・なんともそこがたまりません!
一度お試しいただければ・・・