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愚者の階梯 [book] [松井今朝子]

sample1.jpg松井今朝子/集英社/お薦め度 ★★★☆

時代ミステリー

昭和十年、翌年ニ・ニ六事件勃発、木挽座に満州国溥儀皇帝陛下をお迎え、勧進帳を演目に据えた。そのセリフが<不敬>にあたると亀鶴興行を糾弾する国士があらわれ、対応は専務の川端が窓口となった。

その後も同様の糾弾が続き、木挽座で川端が縊死?する事件が起こる。事件はすんなり片がついたように見えたが・・・川端から相談を受けた手前、桜木治郎、大学講師、は責任の一端を感じつつ、捜査に協力することに・・・

警察はなかなか自殺で事件を処理することなく継続捜査を続ける。そうこうするうち、木挽座の大道具方を束ねる棟梁が殺され、事件の混迷度を増すばかり。二つの事件は関連があるのか?

作者十八番の歌舞伎と時代に指示されつつあるキネマを対比させながら物語をは進む。

急速に右傾化する日本を作者は、「いつの間にかこの国には深い闇が垂れ込めてきているようだ。やがて真の闇が訪れ、だれも身動きできなくなるような気配が漠然と感じられる。まだ仄明かりが少しでもあるうちに、動いたほうがいいのはだれしもわかっているのだ。にもかかわらず、ひたひたを迫り来る闇の恐怖が人を竦ませ、速やかな動きを奪ってしまう」と綴る。

「愚者の階梯」とは思い切った、大胆な表題だ!?「壺中の回廊」、「芙蓉の干城」に続くシリーズ完結編。


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芙蓉の干城 [book] [松井今朝子]

sample1.jpg松井今朝子/集英社/お薦め度 ★★★★

シリーズ第二弾

桜木治郎、大学教授、江戸の狂言役者、桜木治助の末裔、が木挽座を舞台に謎解き・・・歌舞伎に精通している松井今朝子ならではのシリーズ!

治郎の妻の従妹、澪子の見合いが木挽座で設けられ、治郎が立ち会うことに・・・名優、荻野沢之丞の舞台に見とれる澪子だったが、真向かいの桟敷の男女に違和感を感じる、酔って居眠りをして?舞台を見ていない・・・

翌日、その男女が死体で発見される。男は右翼の大幹部、女は大阪島之内の芸妓、治郎は例によって木挽座の絡む件なので、警察から依頼を受け事件に巻き込まれて行く。

結婚する気はさらさらない澪子の見合い相手は職業軍人、実は澪子には恋人が・・・違和感を覚えた澪子は殺された右翼の情報を得るため、度々お見合い相手と会うことになる。

時代は戦争に舵を切り始める昭和八年、治郎、澪子、それぞれの立場から事件の真相に迫って行く。

表題の「干城」(たて)とは「盾」の意味、澪子のお見合い相手が、いみじくも「・・・われわれ軍人は醜の御盾、皇国の干城あのであります」、と。加えて「芙蓉の干城」とは犯人の殺害動機が誰かの「盾」になっていたという意味で、二つの「干城」をかけあわせた表題になっている?ことも凄い!


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壷中の回廊 [book] [松井今朝子]

sample1.jpg松井今朝子/集英社/お薦め度 ★★★★

ノンシリーズ

時代は関東大震災(大正十二年)からの復興を祝う帝都復興祭が催された昭和五年。昭和三年に起きたニューヨーク株式市場の暴落が日本経済にも大打撃を与え、社会運動の取り締まりに特別高等警察、特高、が全国へ配置された。

事件は歌舞伎の大劇場、木挽座で起こる。「掌中の珠を砕く」との脅迫状が届き、狂言作家の末裔、現職は大学講師、の桜木治郎が警察の依頼を受け木挽座へ乗り込む。

そんななか、名優、五代目袖崎蘭五郎が「忠臣蔵」の舞台中に毒殺される。役者、裏方と被疑者が多すぎ、捜査は混迷する。

時代の流れは歌舞伎界にも色濃く反映される。大部屋の役者の賃金カット、それに端を発した労働争議、メーデー・・・

胡散臭いアカの新聞記者、蘭五郎の弟子が撲殺され、事件は混迷の度を増すばかり。素人探偵、桜木は事件を解決出来るのか!?

結末に大きな影響を与える時代背景、不景気、就職難・・・、明治、大正、昭和初期を舞台に多くの著作をもつ松井今朝子ならではの一冊!


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西南の嵐 銀座開化おもかげ草子 [book] [松井今朝子]

sample1.jpg松井今朝子/新潮社/お薦め度 ★★★★☆

シリーズ第三弾にして完結編

「龍馬伝」の完結を待っていたように「坂の上の雲」の第2部、全4回がスタートする。本シリーズはちょうど両ドラマの間に挟まれた時代の人間模様を映し出している。

教科書的に言うと、1874(明治7)年、征韓論派江藤新平を擁して挙兵した(佐賀の乱)。1876には、熊本の保守的な士族たちによる敬神党(神風連)の乱、前参議前原一誠が不平士族を組織して起こした(萩の乱)。1877年に西郷隆盛を擁した鹿児島士族が挙兵した(西南戦争)。

大垣藩主の若様、薩摩っぽの巡査、耶蘇教書店を営む元与力、髪結いの比呂、医者の娘・綾・・・個性豊かな隣人と時代の潮目のなかで、ラストサムライとしてどう処するのか、士族・久保田宗八郎は!?

師走を飾るにふさわしい作品。


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道絶えずば、また [book] [松井今朝子]

sample7.jpg松井今朝子/集英社/お薦め度 ★★★★

時代劇ミステリー三部作

「非道、行ずべからず」、「家、家にあらず」に続く三部作

中村座、三代目荻野沢之丞(立女形)。引退興行の演目は「道成寺」、その舞台で事件は起きる。大道具方、甚兵衛の造作による不慮の死。数日後、甚兵衛も首を吊った姿で発見される。

四代目沢之丞は長男の市之介ではなく、次男の宇源次と目されていた。その宇源次が番屋にしょっぴかれるが放免、事件は迷走する。

作者お得意の歌舞伎役者を登場させた時代劇ミステリー、最後に大奥も登場させるのだが、イマイチ捻りが足らない。「吉原手引草」とくらべてしまうのはわたしだけだろうか・・・

表題の「道絶えずば、また」とは、「たとえ人から見捨てられても、けっして諦めずにひとつの道をずっと歩み続けていれば、かならずやまた浮かびあがる時節もあろう」。


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果ての花火 銀座開化おもかげ草紙 [book] [松井今朝子]


松井今朝子/新潮社/お薦め度 ★★★★ 

シリーズ第二弾!久保田宗八郎を主人公とする連作短編集。

明治九年、久保田宗八郎三十二歳。前作「銀座開化おもかげ草紙」から約二年を経過。明治十年、西郷隆盛を盟主にして起こった士族による武力反乱である西南戦争前夜の銀座。

淡々とした語り口と明治初期の新生ニッポンのうさんくささががみごとに絡み合う。明治に潜むうさんくささを旧士族、久保田宗八郎が一刀両断に。

流石に旨いですね、松井今朝子。しばらく目の離せない作家のひとりになりました。


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吉原手引草 [book] [松井今朝子]

松井今朝子/幻冬舎/お薦め度 ★★★★★ 

本年度上期 No.1の一冊!

まずプロットに脱帽!17人の証言をつなぎ合わせながら、吉原一を誇った花魁・葛城の失踪を追う。

音楽に例えるなら、正しくラヴェルの「ボレロ」。リフレインされながらスパイラルアップ。吉原の表と裏、徐々に明らかになる葛城の人物像、スパイラルアップされた最終章に待つ悲しい真実とはいかに!?

間違いなく本年度上期 No.1の本書、ぜひ一読あれ。


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