郊外の探偵たち [book] [~'23海外編]
ファビアン・ニシーザ/早川書房/お薦め度 ★★★☆
MWA賞最優秀新人賞候補作
アンドレア・スターン、33歳、クイーンズ育ちのユダヤ人、4人の子持ち、お腹のなかには5人目が、若いころにはFBIのプロファイラーとして難事件を解決した・・・
ケネス・リー、中国系アメリカ人、若いころピューリツァー賞を受賞、将来を嘱望されていたが、その後はキャリア・ダウン、ため息ばかりの日々・・・
退屈な毎日、心躍るものは何もないスターン、大きなスクープで一発逆転を狙うリー。そんなふたりが人種的、文化的偏見がはびこるアメリカの小さな郊外住宅地で起きた殺人事件を追う物語。「スターン&リー 郊外の探偵たち」。
事件の発端は。一番下の女の子におしっこをさせるためガソリンスタンドに立ち寄る。そこはインド人の従業員が射殺された現場だった。規制線をはろうとしている二人の巡査、女の子は我慢できずおしっこをもらしてしまう。唖然とする巡査たち、それをしり目に犯行現場を見まわし、手掛かりをつかむスターン。
「木曜殺人クラブ」を彷彿させるユーモア・ミステリー!?スターンの周りにいる暇をもてあます身重のママ友たち、かつて相思相愛だったFBI局員の協力を得、事件解決にまい進する「郊外の探偵たち」・・・
設定はいいのに肝心の謎解きがパンチ力不足!?第二弾もあるようなので・・・
キリング・ヒル [book] [~'23海外編]
クリス・オフット/新潮社/お薦め度 ★★★★☆
CWAゴールド・ダガー候補作
濃密な血縁関係があらゆることの上位にくる片田舎の町で起きた殺人事件、アメリカニンジン採取中の老人が女性の遺体を発見した。
捜査を担当するのは郡保安官のリンダなのだが、町の有力者から見張り役として若いFBI捜査官を押し付けられてしまう。女の保安官は信用ならないと・・・
そこでリンダは帰国中の兄、ミック、米国軍犯罪捜査官、に捜査協力を依頼する。兄は妻との間に大きな問題を抱えていた。
捜査はミック主導で行われるが、一族の結束が強い村社会、人々は口をつぐむ。
アパラチア人は昔ながらの掟に従って生きており、それによって行動を起こすこともある。公然たる侮辱は常に、個人的な問題である。復讐行為は何世代にもわたって引き継がれるのだ。この丘陵地では、不法侵入者は殺した後に許しを乞うたほうが得策だということだった(本書264P)。
ミックは犯人のために捜査協力するという。女性の死はさらに三人の死をもたらした。ミックはどういう結論を出すのか!?
短い章立てとテンポの良さ、そこに何とも言えない文体が相まったミステリー。
ミック・ハーディン・シリーズ第一弾、腕利きの犯罪捜査官であることが結末で明らかにされる。すでに第二弾、三弾が用意されているようなので邦訳を待ちたい。
アオサギの娘 [book] [~'23海外編]
ヴァージニア・ハートマン/早川書房/お薦め度 ★★★☆
ミステリーあるある!?
スミソニアン自然博物館勤務の鳥類画家のロニ、弟フィルからの電話、母さんが転んだんだ。しばらく滞在するつもりでいてよ、母さん、様子がおかしいんだよ。記憶が・・・
母親の介護のためフロリダに帰って来たロニ。母親の荷物を片づけている、家を貸すため、と「ボイド、父親、の死についてあなたに話しておかなくてはいけないことがあります」という謎めいたメモを発見する。
ミステリーあるあるの展開!?
父親のボイドは25年前、沼で不審な溺死を遂げていた。
母の荷物を整理しながら当時のことを探り始めるロニに嫌がらせが始まる・・・
ミステリーとしてはs少々物足らないし、家族の物語としてもイマイチ!?ロニの性格に共感できないからだろうか・・・
残念な一冊。
愚者の街 [book] [~'23海外編]
ロス・トーマス/新潮社/お薦め度 ★★★★☆
クライム・ノベル
上巻はルシファー・C・ダイ、元セクション2の秘密諜報員の来し方の物語。上海爆撃で父親を亡くし、娼館のロシア人女性に拾われ生き延びる。地球を半周、再びアメリカにもどり、セクション2に加わるも、何者かの策略により投獄され失職・・・
下巻では、ダイに持ち込まれたのは不正と暴力で腐敗した街の再生計画・・・ダイに力を貸してくれるのは元悪徳警官のホーマー・ネセサリと元娼婦のキャロル・サッカティ。
「良くなる前にはもっと悪くならなくてはならない」
賭博、売春を黙認、賄賂を受け取る要人たちを次々に排除、弱体化した街には各地のマフィアが群がる。それらを共食いさせるダイたち。
胡散臭い面々のあつまり、予測不可能な展開、まさにクライム・ノベルだ。
巻末に原尞が、もともとロス・トーマスの小説は少しでも早く読了することが目的であるような忙しい読者には向いていない。ロス・トーマスの小説の面白さはそれほどわかりやすくはない、と。
言い得て妙!
盗作小説 [book] [~'23海外編]
ジーン・ハンフ・コレリッツ/早川書房/お薦め度 ★★★★☆
THE PLOT
かつてのベストセラー「驚異の発明」以来、新作が書けないジェイコブ・フィンチ・ボナー・・・今はある大学の芸術修士課程のシンポジウムで小説講座を受け持ち糊口をしのいでいた。
講座の生徒のなかに不遜な態度と大口をたたくエヴァン・パーカーが語ったプロットはジェイコブをとらえてやまなかった・・・
三年がたち一向に前に進めないジェイコブ、ふとしたことからエヴァンを検索してると、出会って二か月後に急逝していたことが判明、何者かがジェイコブにささやく、”よい作家は借用し、偉大な作家は盗用する”
かくしてジェイコブは前作とは比べ物にならないベストセラー「クリプ」を書きあげる。
そんな彼のもとへ「おまえは盗人だ。それはおたがいに知っている」というメールが届く。作中作の「クリプ」と怯えながら脅迫者探しをするジェイコブが交互に語られる。この構成はいけている・・・
プロットの秘密にたどり着くジェイコブを待ちかまえる更なるツイストは見物!?
悪魔はいつもそこに [book] [~'23海外編]
ドナルド・レイ・ポロック/新潮社/お薦め度 ★★★★
ノワール
狂信的な父親のトラウマを抱える息子アーヴィン、説教師と従弟、欲望にまみれた牧師、殺人鬼夫婦、悪徳保安官らが引き起こす暴力の連鎖。連鎖の群像劇。
真っ黒なノワール、暗黒小説。
杉江松恋曰く、ノワールとは中毒者のための小説である。何に。自分の魂に。願望が、欲望が肥大しすぎて他のものが見えなくなった人間は、自分自身であることのみに執着するようになる。一つの道筋を歩くこと以外には何も求めなくなり、やがてはそれ以外のすべてを憎み、世界から消し去ろうとするようになる。
みなさんへのお薦め度は★★★☆だが、ジム・トンプスンのファンとしては★★★★。
鹿狩りの季節 [book] [~'23海外編]
エリン・フラナガン/早川書房/お薦め度 ★★★★
エドガー賞最優秀新人賞
ネブラスカ州の田舎町、鹿狩りの季節が始まったばかり、16歳の女子高生ペギーが忽然と姿を消した。家出をしたのか、事件に巻き込まれたのか、憶測が町を飛び交う。
鹿狩りに誘われた知的障害のある青年ハルが血の付いたトラックで帰宅する。しかも車は何かにぶつかった跡が・・・
ハルがペギーに恋心を抱いていたことから、町の人々はハルに疑いの目を向ける。
ハルを受け入れていた農場主のケウライルとスクルールバスの運転手をしているアルマ夫婦、ペギーの12歳の弟マイロの視点から物語は進む。
平穏な田舎町で突然起きた失踪事件で、濃密でややこしい人間関係が様々な形で反応する。ミステリー要素よりも人間関係の反応に重きを置いた一冊。
ヴァイオレットだけが知っている [book] [~'23海外編]
メリーナ・マーケッタ/東京創元社/お薦め度 ★★★★
追跡サスペンス
目下停職処分中のロンドンの警官ビッシュ、妻に去られ、娘には愛想をつかされ、酒びたりの日々を送っている。そんな彼に娘の乗ったバス、フランス北部へのバスツアー、が爆破されたとの連絡が入る。
イギリスの子供たちが大勢乗っていたツアー、被害者の父親として現場に向かうビッシュ、娘は無事だったが、三人の生徒と二人の大人が死亡、重傷者は三人・・・
ツアー参加者のひとりがかつて23人を殺した爆弾魔の孫娘ヴァイレットと判明、しかも事情聴取のあと参加者の少年エディと姿をくらました。
爆破事件の現場から消えたふたりを追うビッシュという構図なのだが、それに人種とテロの問題、家族の物語、ティーエイジャーの友情と冒険が絡み物語が大きく膨らむ。
重層するプロットは好感が持てるが、登場人物を整理しながら読みすすめなくてはならないのと結末が意外とあっさりしているのがちょっと玉に瑕かな!?
ステイト・オブ・テラー [book] [~'23海外編]
ヒラリー・R・クリントン/ルイーズ・ペニー/早川書房/お薦め度 ★★★★
国際政治スリラー
67代国務長官、ヒラリー・R・クリントン、2009年~2013年
国務省南・中アジア局員に届いた奇妙なメール、<19/0717 38/1536 119/1848>・・・ロンドン、パリでバス爆破事件が起こる。
ジャンクメールとしか思えないものは爆発したバスの番号と爆破時間、暗号ではなく警告だった。<119/1848>は8時間後フランクフルトで119番のバスが夕方の6時48分に爆発するを示していた。
新国務長官、エレン・アダムスは新大統領のライバルを支援していたにもかかわらず長官を拝名。前政権の過去4年間の無策ぶりを目の当たりにしてきた。
前政権はパキスタンの武器商人、核物理学者バシル・シャーを釈放し、わずか数カ月の間に、核合意から離脱し、イランに核開発計画、タリバンやアルカイダに、を自由に行わせた。パキスタンとロシアの一部はそのことを知っていたことに前大統領の動きが複雑に絡みあう。
シャーは核兵器の開発を終え、アメリカの3つの都市に核爆弾を仕掛けていた・・・
まさに国際政治スリラー、国務長官しか知りえないアメリカの安全保障政策の内幕!?
死が三人を分かつまで [book] [~'23海外編]
ケイティ・グティエレス/UーNEXT/お薦め度 ★★★★
実録系サスペンス
ブログにパートタイムで執筆するキャシー、彼女の目にとまった新聞記事、テキサス州ラレードのモーテルでアンドレス・ルッソの遺体が発見されたのは、ドロレス・リヴィエラとアンドレスが結婚して一年、交際を始めてから三年近くたったころだった。メキシコシティ在住のアンドレスは妻のドロレスを訪ねてラレードに来たのにドロレスの家ではなくモーテルに宿泊したのだろうか。
当初ドロレスが容疑者と目されていたが、まもなく夫のファビアンが最有力容疑者として浮上した・・・
30年前の事件を掘り起こし、一冊の本にしたいと野望をいだくキャシーはラレードに住むローレ・リヴィエラ(ドロレス・リヴィエラ)を訪ね取材権を獲得する。事件当日のことは語らないという条件で・・・
ローレはラレードで夫ファビアンと双子の息子マテロとガブリエルと、ドロレスはメキシコシティでアンドレス・ルッソと暮らしていた。ローラとドロレスは同一人物であり、重婚していたのだ。
なぜそんなことが可能だったのかといえば、ローレは銀行の幹部社員でメキシコシティに重要なお客を抱え、頻繁に出張していた。
キャシーとローレの章、過去と現在、が交互に語られ、事件の詳細が次第に明らかになると同時にキャシーの抱える家庭問題も膨らんでいく。ともに秘密を抱えた二人の女の対決はやがてとんでもない結末を読者に突き付ける。
ローレとアンドレスの誓約の儀の一節「病めるときも、健やかなるときも・・・死が二人を分かつまで」・・・表題の「死が三人を分かつまで」の三人とは?