炒飯狙撃手 [book] ['24 海外編]
張國立/ハーパーBOOKS/お薦め度 ★★★★
台湾発のジョン・ル・カレ!?
イタリアでテイクアウトの炒飯店を営む台湾のスナイパー小艾、ローマで総統府戦略顧問を射殺する。根城に戻ったところを襲撃され、追われる身となる。
一方、定年退職を12日後に控えた刑事の老伍は台湾で発生した二人の軍人の不審死を追っていた。
愉しめる設定で物語は始まる。
小艾は自分に殺害を命じた者を追い台湾へ。老伍は二人の軍人の刺青「家」を頼りに定年までのカウントダウンを全うする。いつしか二人、小艾と老伍、が交わる。
キーワードの「家裡人」(身内の者)と台湾の軍事的な立ち位置が巨大な陰謀の渦を巻き起こす。そこにのみこまれる小艾と老伍、最後にふたりが情を交わすところがいいね・・・
黒い錠剤 [book] ['24 海外編]
パスカル・エングマン/早川書房/お薦め度 ★★★☆
スウェーデン国家警察ファイル
若い女性が殺された。元恋人で娘の父親、カリムは仮釈放中で、翌日、刑務所に戻って来た。彼の靴底には女性の血液が付着していた。別れ話に逆上したものだ・・・
事件は解決したも同然、しかし、国家警察殺人捜査課の警部ヴァネッサは狡猾なカリムが証拠を残して刑務所に帰って来たことに疑問を抱く。そんな折り、新聞記者のジャスミナから相談を受けるヴァネッサ。ジャスミナは事件当日、カリムからレイプを受けていた、と。
事件は単純な痴情のもつれではなく、新たな側面を見せ始める。
人気TV司会者、その愛人、路上生活者、元軍人・・が織りなす事件が重層的に描かれ、どこでどう交わるのか先行きが見えない。
事件の終盤、唐突に「インセル」、不本意な禁欲主義者、女性憎悪と結びついた、何万もの男性が匿名掲示板に集う運動、が飛び出し、わたしを困惑させる。
内なる罪と光 [book] ['24 海外編]
ジョアン・トンプキンス/早川書房/お薦め度 ★★★★
MWA賞最優秀新人賞候補作
アイザック、生物教師、の息子ダニエルがアメフトの練習に出たまま行方不明となり、数日後、切り刻まれた死体で見つかる。犯人は遺書を残して自ら命を絶った隣家の長男で幼馴染のジョナだった。
冒頭で明らかになる殺人事件。
アイザックのもとに、エヴァンジェリンと名のる少女があらわれる。妊娠している彼女を自宅に招き入れ、奇妙な共同生活が始まる。
物語はアイザック、エヴァンジェリン、ジョナの視点で語らる。
アイザックは離婚で妻に去られ、話し相手は愛犬だけ。拠り所はクエーカーの教え・・・唯一の友?は校長のピーター。
エヴァンジェリンは娼婦の母親から無一文で放り出され、路上生活・・・
ジョナは心を病み自殺で父親を亡くし、母親ロリーと妹と三人で支えあいながら生きてきた・・・
エヴァンジェリンの父親が誰か?ダニエルとはレイプさながらに、ジョナとは似た者同士としてエヴァンジェリンは関係をもった。
隣同士であるアイザックとロリー、ダニエルはジョナに殺され、加害者と被害者の両親としてどう向き合えいばいいのかわからないまま反目。エヴァンジェリンはロリーを頼り、ロリーもエヴァンジェリンの力になる。複雑に絡み合った糸をほぐし、再生していくのかが本書のテーマ。少々重いが、読者をひきつける一冊。
テラ・アルタの憎悪 [book] ['24 海外編]
ハビエル・セルカス/早川書房/お薦め度 ★★★★☆
CWA賞最優秀翻訳小説賞受賞作
主人公メルチョールは、十代の頃、麻薬カルテルの手先として逮捕、投獄されてしまう。獄中で「レ・ミゼラブル」との出会いと母が殺されたことが相まって、警察官を目指す。何と言う設定・・・
弁護士、娼婦だった母親の客?父親?、ビバレスの協力を得、無事警察官となった。彼を一躍ヒーローにしたのは四人のテロリストを射殺した事件。警察上層部はテロリストの復讐を恐れ、メルチョールを田舎町、テラ・アルタへ異動させた。
事件はそんな田舎町で起こる。町一番の富豪であるアデル美術印刷の社長夫妻が拷問の末、惨殺された。日本でいう帳場がテル・アルタ署にたち、メルチョールも捜査本部に召集される。
ここからメルチョールが「レ・ミゼラブル」と、母親の死から学んだ彼自身の哲学、正義を貫く不屈の闘志、道義を求め悪を忌み嫌う、が捜査に色濃く反映される。そんなメルチョールに署長が、「正義は善だ。しかし、極端な善は悪に転じてしまう。もうひとつ。正義とは、単なる内容の問題ではない。なによりも、形式の問題なのだ。正義の形式を尊重しないことは、正義を尊重しないと同じなのだ・・・絶対的な正義は、絶対的な非正義にもなり得る」ことをおぼえておけ、と。
最後の最後にメルチョールに付きつけられる正義とは何か、悪とは何か・・・哲学的なスペイン・ミステリーだ。
ロング・プレイス、ロング・タイム [book] ['24 海外編]
ジリアン・マカリスター/小学館/お薦め度 ★★★★
タイムリープ・ミステリー
タイムリープ:意識のみが時空を移動する。時空を飛び越える
離婚専門の弁護士のジェン、内装業者の夫ケリー、18歳の息子トッド、平凡で幸せな生活を送っていた。10月30日の深夜、ジェンが窓越しに見たのは、息子が見知らぬ男を刺殺するところだった。
ケリーと現場に駆け付けるジェンはなすすべもなく、トッドは逮捕されてしまう。眠りについたジェン、目覚めると10月28日の朝に戻っていた。
それ以降ジェンは目覚めるたびにタイムリープしていく・・・
少しづつ事態が飲みこめてくると、何とかして息子の殺人を事前に食い止める事が出来ないかと思案する。
息子の部屋で見つけた警察手帳、行方不明の赤ん坊が載った古い張り紙、プリペイド式携帯電話が事件の鍵を握る。
どこまでタイムリープすれば息子の殺人事件を阻止できるのだろうか?
伏線回収、トッドに対する罪悪感、夫の知られざる過去・・・怒涛のタイムリープ。
タイムイリープ・ミステリー+家族愛の物語。
ザ・メイデンズ ギリシャ悲劇の殺人 [book] ['24 海外編]
アレックス・マイクリーディーズ/早川書房/お薦め度 ★★★☆
ミスリード
心理療法士のマリアナにケンブリッジ大学の学生の姪ゾーイから電話が・・・学友が殺された、と。
マリアナもケンブリッジに通っていたことから早速大学へ向かう。ゾーイから聞く被害者の生前の言動からギリシャ悲劇が専門のフォスカ教授が犯人だと確信する!?
しかし、教授にはアリバイ、教え子に講義をしていた、があったが、マリアナの見解は変わらず、関係者に話を聞くうちに次なる犠牲者、教授の取り巻き乙女<メンデンズ>のメンバー、がふたり・・・
夫を亡くして間もないマリアナの偏執的な精神状態に終始ミスリードされ、最後の最後に思ってもいなかった<ちゃぶ台返し>が待っている。わたし的には気に入らない<ちゃぶ台返し>だった。
生贄の門 [book] ['24 海外編]
マネル・ロウレイロ/新潮社/お薦め度 ★★★★
スパニッシュ・ホラー
脳腫瘍で余命いくばくもない9歳の息子をかかえる治安警備隊の捜査官ラケル。医師から見放されたラケルが最後の頼みの綱は奇跡の呪術医?そのために異動を申し出、小村に移り住む・・・
事件はその小村で起こる。心臓を抉り取られた娘と作業員の遺体が発見され、転勤早々のラケルとバディを組むファンは現場に赴く。
儀式めいた殺人事件、マドリッドと違い時間がゆっくり流れる田舎、検死報告書もなかなかあがってこない。ラケルとファンは自力で捜査を続けるが、ラケルの周辺で次々とオカルト的な出来事、闇からの囁き、亡霊、長衣の人々、が発生する。
猟奇的な殺人事件がオカルト・ミステリーへ、ラストではアクション・ミステリーへと変貌、読者を飽きさせない。
本書のキー・ワードは「冥界の門」、この世と別次元の接点、黄泉の国、死者の王国。
7月のダークライド [book] ['24 海外編]
ルー・バーニー/ハーパーBOOKS/お薦め度 ★★★★
青春ノワール
大学を辞め、遊園地の恐怖体験ゾーンで働く落ちこぼれのハーディ、最低賃金の仕事だが本人は満足している。
そんなハーディが駐車違反の切符を持って市庁舎を訪れたとき、ベンチに座っている姉弟を見つける。ふたりにはタバコの火傷跡と思われる小さな丸い点が・・・
児童サービスに連絡を試みるハーディだったが、聞く耳を持たない連中ばかり、普段ならかかわりを持たないのだが、問題を抱えている?母子を救うべく闇の中へ突き進んでいく。
ハーディーをとり囲む面々がいい、市庁舎の受付のゴス娘、ハーディと同じ職場で働く高校生、元私立探偵の不動産屋・・・ハーディの視点で進む物語を脇役が盛りたてる。
運命のラストはまさに青春ノワール!?
死刑執行のノート [book] ['24 海外編]
ダニヤ・クカフカ/集英社/お薦め度 ★★★★
エドガー賞最終優秀長編賞
四人、少女三人、元妻、の女を殺した死刑囚アンセル・パッカーの死刑執行12時間前から物語は始まる。
残り時間が減っていくアンセルの視点、アンセルに複雑な思いを抱く三人の女たち、アンセルの母親ラヴェンダー、アンセルの元妻の双子の妹ヘイゼル、アンセルと一時期、一緒に里親の家で過ごしたサフィー、ニューヨーク州警察捜査官、の視点で過去と現在が綴られる。
三人の女がそれぞれ夫、子供、姉、義兄、友、そして自分の過去と現在を語らせることでアンセルの虚像と実像を浮き彫りにするところは秀逸だが、全体の色彩が暗く、沈んでいるので読者の気持ちも萎えいでしまう!?
悪人になるのはさほど難しくない。悪とは、見つけたり捕まえたりすることができるものではなく、大事に抱えておくことも追い払うこともできない。悪とはひそやかに目立たず、ほかのものに紛れて隠れてしまう。
悪なき殺人 [book] ['24 海外編]
コラン・ニエル/新潮社/お薦め度 ★★★★☆
心理サスペンス
五人の語り手、アリス、ソーシャルワーカー→ジョセフ、羊飼い、アリスの不倫相手→マルベ、デザイナーの卵→アルマン、アフリカで「国際ロマンス詐欺」を働く青年→ミシェル、アリスの夫で農場主。
章ごとに語り手が変わり、過去や現在を語っていく。最初の章アリスではジョセフとの不倫劇と資産家の妻の失踪。
ジョセフと資産家妻との孤独な関係→マルベと資産家妻の火遊び!?→アルマンの章で予想もしない展開を見せる→最後のミシェルでバラバラだったピースが収まる。
プロットの際立つフレンチミステリー、拾いものの一冊!?