ピラミッド book] [ヘニング・マンケル]
ヴァランダー・シリーズ初の短編集
ファンにとってはたまらない短編集。
歳を追う形で五編収録、「ナイフの一突き」はヴァランダー、22歳、刑事課で働くことを切に願うマルメ署の警察官、モナとは危うい?恋人関係。
「裂け目」ではマルメ署刑事課勤務の28歳、モナとは結婚、5歳になる娘リンダがふたりの関係をつないでいる。
「海辺の男」、「写真家の死」、「ピラミッド」はイースタ署の刑事、ヴァランダー40歳から42歳、モナとの結婚生活は崩壊、「ピラミッド」では離婚。
副読本的な要素たっぷりな一冊、時代の流れとともに変質するヴァランダーとモナの関係、最初から危ういのだが・・・ヴァランダーとヴァランダーの父との絆、ヴァランダーにとっては面倒くさい、が「エジプト」では色濃く出ている。
私的には一番目の「ナイフの一突き」の初々しさがいい・・・ファン必読の一冊!
霜が降りる前に [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★
クルト・ヴァランダラー・シリーズ番外編!?
今回の主人公はヴァランダラーの娘、秋から警察官実習生として父と同じイースタ警察署勤務開始直前の、リンダ。
研修を終え、この夏は父のアパートに同居しているリンダ。そんな折、友達のひとりアンナが行方不明に。まだ正式に警察官になっていないリンダだったが、勝手に捜索に乗り出す。
白鳥が燃やされたり、子牛が焼き殺されたりする奇妙な事件が起き、さらにアンナの日記に書かれていた名前の女性が猟奇的な殺され方で発見される。
事件前、アンナは25年前に失踪した父を見たと。お互いに頑固な父と娘、衝突しながら捜索が進むなか、アンナがひょっこり戻って来た。
事件解決かと思いきや、今度はもうひとりの友達が行方不明に。ここから父と娘が一緒に事件に挑む。
事件の動機はイマイチだが、30歳になろうとする娘リンダの父親譲りの我の強さは一見の価値あり!?
北欧ミステリーの立役者が次々に急逝、ヘニング・マンケル、ジェイムズ・トンプソン、スティーグ・ラーソン・・・実に残念!
殺人者の顔 [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★
ガラスの鍵賞受賞作
先月、10月5日、亡くなったヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー・シリーズ第一作
1月8日の早朝、ヴァランダーは一本の電話で起こされる。農家で起こった殺人事件、夫は目鼻立ちがわからない位凄惨な姿、妻は両手を縛られ虫の息、言い残した言葉は「外国の」だった。
スウェーデンの抱える移民問題を煽るようなダイイングメッセージ、発表を控えるヴァランダーだったが、警察暑内部からのリーク?により脅迫電話を受ける。
脅迫は事実となる。移民逗留所での火災、ソマリア人の射殺・・・ヴァランダーは2つの殺人事件を抱えることになる。
そんな折、死亡した農家の妻の弟から意外な情報がもたらされる。義弟は妹に内緒で戦時中に大儲けをし、大金を貯め込んでいた。しかも愛人と子どもがおり、年に何回か大きな金額をわたしていたと。
移民問題が大きな鍵を握る警察小説のシリーズ第一幕。
追伸:ご冥福をお祈りするとともに、最新刊「霜のおりる前に」の一日も早い発行を希望します。
白い雌ライオン [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★☆
ワールドワイドな警察小説
スウェーデンの警察小説とはレアな題材。なんとなんとCWAゴールドダガー賞受賞シリーズ。
不動産業者の女性が消え、捜査に乗り出す主人公、クルト・ヴァランダー警部。最後に立ち寄ったと思われる売家、そこで起きる謎の爆発炎上、焼け跡から発見される黒人の指、南アフリカ製のライフル、ロシア製の通信装置・・・
イントロは文句なしの警察小説の態をなしている。そこに南アメリカのデクラーク大統領、ネルソン・マンデラ、元KGBの諜報員らが登場するや、スウェーデン、南アフリカ、ロシアを舞台にしたワールドワイドな警察小説へと変貌していく。
シリーズ第三弾。題名「白い雌ライオン」に込められたものはなにか?ヒントは南アフリカのアパルトヘイト政策にあり・・・
背後の足音 [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★☆
ヴァランダー・シリーズ第七弾
なかなか手が出にくかった一冊。
同僚刑事・スヴェードベリが射殺され、困惑するイースタ署の面々。捜査の最中、扮装した若者三人の射殺死体が発見される。続いて若者三人組の友人がヴァランダーの前で射殺される。一見何のつながりもないように思えた事件がいつしか結びつく。
事件はそれだけで終わらない。結婚式を挙げたばかりのふたりとカメラマンが射殺され、被害者は8人となる。同僚刑事の死にヴァランダーをはじめとする面々は昼夜を問わず捜査に打ち込む。
犯人は誰も知らない情報、パーティー、撮影の場所、をどうやって入手したのだろうか?
一方、スヴェードベリの私生活について何も知らなかったヴァランダー、改めて捜査するなかでスヴェードベリの隠された秘密が徐々に明らかになる。
800頁超えの大作だが読ませます。円熟のシリーズ。
タンゴステップ [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★
ヘニング・マンケル最新刊
一人の老人の惨殺死体、血だらけの足跡、その形はタンゴステップ
舌ガンを宣告された警察官、ステファン・リンドマン、新米のころ指導してくれた先輩、モリーンが殺されたという新聞記事を見、ガン治療開始前休暇を事件に費やすためモリーンのもとを訪ねる。
事件に首を突っ込むうちに第二の殺人事件が起こる。地元警察は同一犯として捜査。
今回の物語はモリーンを殺した犯人としてブエノスアイレスから来た男がはじめから登場する。その男は第二の殺人事件は自分がやったものではないため、新犯人が捕まるまで帰国を延ばす。
第二の殺人事件は娘の登場であらぬ方向へと向かう。第二次世界大戦の勝者と敗者が作るスケールの大きな作品。
目くらましの道 [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度 ★★★★★
シリーズ第五弾、エンジン全開!
頭皮を剥がして持ち去る猟奇的連続殺人事件、失踪少女がガソリンをかぶり焼身自殺を遂げた事件、ふたつの異常な事件の指揮を執るクルト・ヴァランダラー。
連続殺人は元法務大臣、画商、盗品の売人へと。犯行は次第にエスカレートし、捜査は難航する。
焼身自殺も細々と捜査は続けられていたが、思うような成果はあがっていない。
二重苦のヴァランダラー、四人目の犠牲者をつけねらう犯人、軍配はどちらに!?
リンカーン・ライムのような最新の機材を使った捜査とは一線を画す、地道な捜査が本シリーズの売り物。安定感抜群のシリーズ第五弾。ぜひ一読を!
笑う男 [book] [ヘニング・マンケル]
ヘニング・マンケル/東京創元社/お薦め度★★★★
世捨て人となったヴァランダー警部のもとを訪ねた友人の弁護士・トーステンソン、同じ弁護士だった父親の交通事故死に、不信な点がある、と言う。数日後、トーステンソンの死を知るヴァランダー警部、イースタ警察署に復職を決意する。
ふたりの弁護士秘書だったドゥネール夫人の庭に仕掛けられた地雷、自分の車の爆発から間一髪難を逃れるヴァンダー警部、犯人の魔の手が迫る!?
ヴァランダー警部の捜査法といえば、超近代的なものではないし、昔ながらの経験と勘でもない。ヴァランダー一流の理論?それが本シリーズの長続きの秘訣ではないだろうか。それと「スウェーデン」というレアな舞台設定も相まっていることは確かだ。
前作同様、うまい表題だ。「笑う男」とは何者か?一読あれ・・・