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いっぽん桜 [book] [山本一力]

山本一力/新潮社/お薦め度★★★★

すごい勢いで書きまくる一力、2005年、新刊九冊、文庫化五冊、本書も文庫化の一冊、インクレディブル!

「深川駕籠」と「草笛の音次郎」の間に位置する、デビューからちょうど三年、2003年初版作品。四つの短編を収録。

表題の「いっぽん桜」、
サラリーマン社会を見事に反映している。現社長の勇退に伴い、息子に新社長を譲るため、右腕だった専務も道連れ「定年」を余儀なくされる。関連会社へ出向するが、なかなか馴染めない新しい会社、ついつい前の会社のことを考えてしまう。

「ふといっぽん桜を見た。植え替えられたすでに七年、桜は枯れもせず、新しい場所にしっかり根を張っている。それがあかしに、咲いたり咲かなかったりと、今まで通りのいとなみを繰り返している。それにくらべあたしは・・・
植え替えられる前の土を懐かしんで、今の土に馴染もうとしていない。おのれの振舞いを深く恥じた。そのとき・・・」

なんとも一力らしい現代にも通じる人情話。

苦言:それにしても書きすぎ!まるでハリー・ポッター状態、どの作品に力を注いでいるのか、「?」 依頼された仕事を断ることをしない!? そんなふうに見えてしまう。ファンとしてもう少し仕事を選んでほしいものだ。


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欅しぐれ [book] [山本一力]

山本一力/朝日新聞社/お薦め度★★★★

騙されてつくったニ千足の雪駄をとんでもないアイデアで武器にするくだりは圧巻!「さすが一力!」と大向こうから声がかかりそう。

桔梗屋の乗っ取りを企む鎌倉屋。鎌倉屋の依頼を受けた一味の前に立ちはだかるのは、賭場の貸し元・霊巌時の猪之吉。ひょんなことから桔梗屋の後見役を引き受けていた。

乗っ取り屋VS猪之吉一家の知恵比べ、体力勝負の闘いが始まる。

男を感じさせる一冊!


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草笛の音次郎 [book] [山本一力]

山本一力/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

股旅:ばくち打ちなどが足に任せて諸国を歩くこと。股旅物:ばくち打ちを主人公にした小説、映画など。最近とんと耳にしないことば、股旅、股旅物・・・古色蒼然とした題材?を一力はどう料理するのか。

先日、あるトーク番組に一力が出ているところを、たまたま見ました。第一印象は「いい声」をしているな、ということでした。事業の失敗で背負った借金が二億!債権者にモノを書くことで借金返済をお願いしたところ、拒絶はされなかった、と。それなら死に物狂いでモノを書こうということを決めた・・・毎朝、夜中が仕事タイムなので、奥さんの枕元に、その晩書いた原稿を置くことが日課となった。その原稿を見た奥さんは、次はどうなるの、次はどうなるのと原稿を楽しみにしてくれるようになった。女房がそんなに面白いならということで枚数を重ねた結果が、直木賞だった。映画のカット割りを書くように、物語を進行させる。そんな感覚だった、と・・・そう言われると、一力の作品は映画のカット割りのように物語を進行させている。本書も然りだ。

本書をひとことで言えば、代貸に見込まれた音次郎が、股旅を通じ、周囲の暖かな手助けを得、成長していくさまを描いた作品。一力の音次郎に対する暖かな眼差しが感じられる作品と言ってもいい。


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深川駕籠 [book] [山本一力]

山本一力/祥伝社/お薦め度 ★★★★

日本一の駕籠かき、新太郎と尚平の連作短編集。

新太郎は、老舗両替屋の総領息子。なに不自由なく育ち、臥煙(火消し)組に入って半年足らずでまとい頭になった。町鳶に先駆け火元の屋根を奪ったまではよかったが、雷に撃たれ、二丈(約6メートル)の高さから転げ落ちた。それ以来身体が高い場所を怖がるようになった。

尚平はわけあって、本所の相撲部屋から追い出された。二十三歳の秋祭りで網元の息子と結びで立ち合い、相手の変化をもろともせず土俵下へ突き飛ばした。逆恨みした網元は尚平を罠にかけ、力士への道を絶たせただけでは収まらず、やくざ者を江戸に飛ばして襲わせた。

立ち回りの最中、ふたりは富岡八幡宮で出会い、木兵衛店に住み着いた。新太郎は父親から勘当され、実家の人別帳から消されている。浜から逐電した尚平も無宿者だった。

辻駕籠の届けは木兵衛が手配りした。株の賦代は、店賃に加えて毎月取り立てることで、ふたりは駕籠かきとなった。いまでは江戸府内なら、町名を聞いただけでぴたりと着けられる。

笑いとペーソスを乗せて走る新太郎、尚平の深川駕籠。「うらじろ」、「紅白餅」、「みやこ颪」と続く連作は圧巻!


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はぐれ牡丹 [book] [山本一力]

山本一力/角川春樹事務所/お薦め度 ★★★★

日本橋両替商の跡取り娘・一乃が深川の裏店に暮らして五年、夫・鉄幹が茂林寺から受け取る寺子屋の給金ではままならぬため野菜の棒手振を始めて二年がすぎている。今日も息子・幹太郎を連れて野菜の仕入れに行く。

二十五年前、裏店は二棟六軒を普請した。お加寿は店開きからの店子で、越してきた翌日から産婆を始めた。当時のお加寿は二十三歳。眉と瞳がくっきりと黒く、絣の襟元をわずかに崩した着こなしには隠しようのない艶があった。

両親を斬り殺されたのは、分吉が十四、おあきが九歳の冬だった。まわりの情けに支えられて兄妹はなんとか立ち行けたが、食べるだけで精一杯だ。左官仕事の股引一枚、新しいものを買うゆとりはなかった。それを助けたのがお加寿である。おあきを手元で使い、こどもが稼げる手間賃のうえの給金を払った。

毎日、野菜を仕入れるおせきの竹薮で、一乃が一分銀を拾うところから事件が始まる。当時の一分銀は銀十五匁、千二百五十文の値打ちがあり、鉄幹の給金ひと月ぶん近い大金である。一乃が違和感を覚えた一分銀は実家の本多屋に持ち込まれ吟味され、贋金だと指摘された。

おかねの産後の具合があまりよくないことに重ね、亭主の清吉が顔をださない。分吉とおあきが清吉の宿で見つけたのは紙縒りで綴じた本だった。ふたりはそれをおかねへもとに持ち帰る。

贋金、依然行方不明の印判職の清吉、忽然と連れ去られるおあき・・・事件はあらぬ方向へ向う。

一力は題名の「はぐれ牡丹」のために粋な物語を用意してくれた。わたし的には泣ける一冊。主役の一乃ではなく脇役の人情話を題名にするところなんて憎い演出!

さまざまな過去を背負いながら、明るく、助け合い、一生懸命生きている裏店の人情話。一力マジック全開なり!


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蒼龍 [book] [山本一力]

山本一力/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

オール讀物新人賞受賞作「蒼龍」を含む五篇。本来は一力の原点である「蒼龍」を中心に話をすすめるべきだが、わたしが興味をおぼえたのは、「菜の花のかんざし」、「長い串」の二篇。何ゆえかといえば、一力十八番の人情ものではなく、武家ものだからです。

「蒼龍」をはじめとする三篇はその後、「損料屋喜八郎始末控え」、「あかね空」と続き、大輪の花を咲かす。しかし、ここでとりあげる二篇はその後一力の題材から姿を消す。武家ものがなまはんかなものではないということもあるのだろうが、下衆の勘ぐりだが、「藤沢周平」を超えることは至難の業、と諦めたことの方が大きいように思える。結果的には大正解なのだが・・・

新人賞はとったものの、借金返済の目処は武家ものではなく、人情ものでと決意したきっかけの一冊!?

真実やいかに?


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損料屋喜八郎始末控え [book] [山本一力]

山本一力/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

デビュー作、待望の文庫化!

損料屋とは、夏の蚊帳、冬場の炬燵から鍋、釜、布団まで賃貸しする職業。年寄りの生業だというのが通り相場だった。主人公、喜八郎は威勢の失せた年寄りではない。わけありの損料屋。言わば損料屋は仮の姿。

山本一力の巧いところは、連作短編なんだが、時間軸がしっかりしているため、一冊の物語として読ませてしまう。

田沼バブルがはじけた江戸、幕府の借金棒引き政策・棄損令に振り回される札差、板長、棒手振・・・すべての人間が痛みに耐えながら懸命に生きていくさまを描く、一力ワールド。

公的資金の注入、経済失速、デフレ・・・どことなく似ていますね!?

ファンだから言うんじゃないけど、本当に一力は「う・ま・い!」


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大川わたり [book] [山本一力]

山本一力/祥伝社/お薦め度 ★★★★

大工の仲間内でも銀次の名は通っている。棟梁をもたない流しの大工になっても仕事がきれることがなかった。月に二十日働けば二両が稼げた。

銀次はこれまでにふたりのおんなと恋仲になったが、立て続けにしくじった。それから人を好きになるという気を捨てた。

育ててくれた棟梁を失ったこころに大きな穴があいた銀次は、博打にはまった。稼ぎのほとんどを賭場に沈めた揚句、わずか半年で二十両もの借りを作った。

達磨の猪之介から「二十両をけえし終わるまでは、大川は渡るんじゃねえ・・・おまえが大川のこっちに来てもいいのは、ゼニをけえしに来るときだ。そうじゃなしに一歩でも渡ったら、その場で始末する」と言い放たれる。

昨年初秋、銀次が段取りを仕切った、堀正之介道場に足が向いていた。子細を聞いた正之介は銀次を道場に住まわせる。ただし、三つの取り決めをもって・・・ひとつは、言葉遣いを改めること。お店者の話し方に変える。ふたつめは道場の修繕。最後は夕げ前に木刀の素振りを五百回いたすこと。

こうして八両の貯えが残るまでになったころ、正之介から呉服屋の手代になることを勧められ、迷ったあげく銀次は手代になることにかける。

めきめき頭角をあらわす銀次の前に大きな罠が仕掛けられる。嫉みを持つもの、想いを寄せるものが絡みながら・・・

銀次を取り巻く人間関係の中で、悪役とおぼしき博徒、猪之介のかかわりが嬉しい。前作「あかね空」の傳蔵同様に・・・表紙といい内容といい一力(いちりき)時代劇、二部作の出来上がりです。


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あかね空 [book] [山本一力]

山本一力/文藝春秋/お薦め度 ★★★★★

わたし的には、今、時代劇を書かせたら一番巧いのは宮部みゆきだと思っています(ミヤベのファンということを差し引いても)。そのミヤベに勝るとも劣らない名手があらわれました。その名は山本一力(いちりき)!

江戸で一旗あげようと新兵衛店(しんべいだな)に京から下ってきた豆腐職人の永吉。店賃の交渉の後押しや、宿が決まって安心した永吉を晩ごはんに招いたのは同じ長屋のおふみだった。おふみの父・源治、母・おみつも永吉の身の上を聞き、仲良くさせてもらうと言ってくれた。

次の日から豆腐屋、「京や」を始める準備が始まった。その手助けは源治とおふみの仕事だった。京の豆腐は江戸前の木綿豆腐とくらべ柔らかく、売るのは骨だと思われたが、初日に作った百丁はすべて売り切れた。しかし、次の日から売れ残る毎日が続くことになる。おふみの思案で、残った豆腐はご喜捨させてもらうことにした。

永吉に行き別れになった息子への思いを重ねる相州屋の女将。その思いがふたりの運命を左右することになる。

後半は永吉とおふみ、三人の子供たち、長男・栄太郎の借金、跡取り問題が絡み合い、それぞれの運命を翻弄する。

身体が大きく、飯をたくさん食うことが疎んじられ、間引き同然で奉公に出された永吉の親に対する思い。天神さまの境内から連れ去られ、賭場で生身の人間相手に、殺生ぎりぎりの稼業を続ける傳蔵。賭場の借金を重ねる長男・栄太郎・・・

永吉、おふみ、榮太郎、次男、長女、傳蔵、それぞれの視線からそれぞれの思いが丁寧に綴られ、クライマックスへと向う。

時代小説の心が十分に伝わる一冊。「巧いのひと言!」


タグ:直木賞
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