SSブログ
柚月裕子 ブログトップ

暴虎の牙 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/KADOKAWA/お薦め度 ★★★★

「孤狼の血」シリーズ完結編

「孤狼の血」は昭和63年を舞台に、ガミさんこと大上章吾の呉原東署に日岡秀一が赴任するところから始まる。本書はそれを遡ること6年、昭和57年。ガミさんは広島北署捜査二課、暴力団係。

呉原でヤクザも恐れぬ愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦、地元最大の暴力団、五十子会の賭場襲撃、覚せい剤強奪と圧倒的な暴力で勢力を拡大しつつあった。

ふたつの抗争、五十子会と呉寅会、の匂いを嗅ぎつけたガミさんは「暴虎」の沖を食い止めようと奔走する。

舞台は一転、平成16年、懲役18年をくらった沖が出所する。自分を大上に売った奴を探し出すことと広島でふたたび天下をとるため動き出す。

暴力団対策法の下、シノギもままならない「呉寅会」、焦燥感にかられ暴走を始める沖の前にガミさん、既に亡くなっていた、の一番弟子、日岡秀一、呉東署の刑事、があらわれる。

警察小説としては、ハードボイルドとしては、時代の変遷が小学校からつるんできた幼馴染ふたりと袂を分かつ、結末が寂しすぎるが、小説としての完成度は高い。


nice!(1)  コメント(0) 

検事の死命 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/宝島社/お薦め度 ★★★★

佐方貞人シリーズ第三弾

四編収録の連作短編集、表題作の「死命を賭ける」(刑事部編)、「死命を決する」(公判部編)が佐方貞人らしい!

満員電車内で女子高生に痴漢を働いたとして武本弘敏が逮捕された。武本は容疑を否認、金を払えば示談にすると囁かれた、と・・・

武本は県下で有数の資産家一族の婿養子。迷惑防止条例違反という瑣末な事件?に拘る佐方に、上司、大物国会議員らから圧力がかかる。圧力をものともせず、起訴に踏み切る佐方。

刑事部から公判部へ異動、この事件を再度扱う佐方に勝算はあるのか!?

「俺の関心はあいにく、出世や保身にないのでね。関心があるのは、罪をいかにまっとうに裁かせるか、それだけです」。何とも骨太の法廷ミステリーだ!

nice!(2)  コメント(0) 

慈雨 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/集英社/お薦め度 ★★★★

趣を異にする警察小説

警察官を定年退職した神場、以前から決めていた四国遍路の旅に出る。ひとり旅と考えていたが、妻を伴うことに・・・

旅先で知った少女誘拐事件、16年前に神場が捜査にあたった事件と酷似していた。神場の胸には冤罪事件ではなかったのかという悔恨の念があった。犯人が捕まり、収監された後、一件の目撃情報をもとに再捜査を申し出たが、刑が確定していること、警察のメンツ?から再捜査は認められなかった。

巡礼の旅と並行して捜査の進捗をかつての部下から知らせてもらう神場。

お接待役の老婆のひとことが、「お遍路さんのたいがいは、心になんか重たいもんを抱えていなさるけど、あんたもそうなんじゃろ」、神場の胸に突き刺さる。

死ぬまで刑事を貫き通す神場の下した結論に刑事の妻はどうこたえるのか!?

現在起きている事件そのものより16年前の事件に対する神場の落とし前を四国巡礼の旅とリンクさせた異色の警察小説!?

物語の紡ぎ方に長けた作家だ・・・

nice!(2)  コメント(1) 

凶犬の眼 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/KADOKAWA/お薦め度 ★★★★

「孤狼の血」の続編

田舎の駐在所へ飛ばされた日岡秀一、カレンダーにバツ印をつけることが一日の終わり、無為?な日々を送っていた。

叔父の葬儀で広島へ行った折り、「志乃」、二年前、ガミさん、前作の主人公、と足しげく通った店、に顔を出す日岡、そこで敵対する組長を暗殺、指名手配中の国光寛郎に出くわす。国光が言い残した言葉「わしゃ、まだやることがのこっとる身じゃ。じゃが、目途がついたら、必ずあんたに手錠を嵌めてもらう。約束するわい」。

国光と再会したのは、日岡が管轄する地域のゴルフ場の工事現場、男気あふれる国光に接するうち、国光のあの言葉にかけてみたくなる日岡が・・・

物語は前作と違いゆっくりと流れる。国光のやり残したこととは?それに日岡がどうかかわるのか?

ふたりが盃を交わし、ヤクザの仁義、警察官の使命を成し遂げようとする件は、ツボを心得ている著者らしい!?

前作「孤狼の血」は5月12日、役所広司主演で封切、日岡役は松坂桃李、バリバリの呉弁が聞けるらしい・・・

nice!(2)  コメント(0) 

盤上の向日葵 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/中央公論新社/お薦め度 ★★★★

将棋ミステリー

山形で行われている注目の竜昇戦、七冠に大手をかけようとしている壬生Vs東大卒、ITベンチャーの旗手から転身した異色のプロ、上条、その会場に姿を現すふたりの刑事、そのひとりがつぶやく「いい面構えだ。人ひとり殺してもなんでもねえって面ァしてやがる」。

この四ヶ月前、山中で発見された白骨化死体、死体とともに初代菊水月作の名駒が遺留品をして見つかる。嘗てプロ棋士を志した新米刑事、佐野と叩き上げの石破刑事が名駒の出自をあたる。

捜査と交互に語られる上条の出自、幼いころ母親を亡くし、博打と酒に溺れる父親、味噌作り職人、に虐待されながら育つ。教師を退職した唐沢が出す紙ごみの将棋本を抜き取り勉強をする上条。上条に救いの手を差し伸べる唐沢・・・

父親をとるか、唐沢をとるか選択を迫られる上条、父親を選択、唐沢の手を離れる上条。奨学金をもらい東大に合格する上条、上京することで結果的に父親を捨てることになる。流れ流れ唐沢が手に入れた初代菊水月作の名駒を餞別として上条に送る。

東大在学中に出会う胡散臭い真剣師、賭け将棋のプロ、東明、彼が上条に良い意味でも悪い意味でもプロ棋士としての性根を植え付けることになる。

東明に魅入られるように雪荒ぶ青森へ「旅打ちに」出かける上条、ふたりの姿が松本清張の「砂の器」を呼び起こさせる。

刑事たちと上条が竜昇戦の場面に繋がることは最初から分かっているが、読者をとことんまで焦らす著者、白骨死体は誰?なぜ名駒が一緒に埋められていたのか?

何点か不満を残しつつ進む物語、最後に明かされる真実に不満も霧消してしまう!

nice!(2)  コメント(0) 

孤狼の血 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/KADOKAWA/お薦め度 ★★★★☆

日本推理作家協会賞受賞作

2015年「このミス・・・」国内編3位

各章のはじめに、日岡秀一、交番勤務を1年、機動隊を2年務めて広島、呉原東署捜査二課、暴力団係に赴任、の日誌が一行削除、二行削除の状態で示される。章の要約と思っていただければいい。

赴任早々、上司の班長大上章吾、ヤクザとの癒着が噂される刑事、から洗礼を受ける。刑事のイロハは先輩の煙草に火をつけること。また先輩と同行するときは下のもんが先を歩き先輩の盾となる・・・

時は昭和63年、組のフロント企業の金融会社社員の失踪をきっかけに暴力団同士の抗争が始まる。大上の哲学は「ヤクザが堅気に迷惑かけんよう、目を光らしとることじゃ。あとはやりすぎた外道を潰すだけでええ」。

強引な違法捜査を繰り返す大上に戸惑いながら、大上同様日岡も仁義なき戦いに巻き込まれていく。

女性作家がバリバリの広島弁で極道の世界を描いたこと、悪徳刑事?の大上が堅気に迷惑がかからないように抗争の仲介をかって出ることに驚愕!

何と言ってもラストで日誌から削除された部分、3年たらずで捜査二課に配属になったことの意味が明らかにされる。これがなければただ単に「仁義なき戦い」のオバージュに終わっていた・・・無類の衝撃が!!!

追伸:既に役所広司主演で映画化が決定、加えて第二弾「凶犬の眼」もそう遠くない時期に店頭にならぶそうだ。


nice!(2)  コメント(0) 

最後の証人 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/宝島社/お薦め度 ★★★★

ヤメ検・佐方貞人

「検事の本懐」に続く一作。5年前に検察官を辞め、弁護士になった佐方貞人。12年ぶりに訪れる街で起こった事件、痴情のもつれによる殺人事件、の弁護を引き受ける。

状況証拠は被告人が犯人であることを示している。しかし、腑に落ちない部分を埋めあわせていくと被告人の無実に結び付く。法廷での勝利を勝ち取るには事件の鍵を握る証人の出廷がなければならない。

泣かせる台詞、「誰でも過ちは犯す。しかし、一度なら過ちだが、二度は違う。二度めに犯した過ちはその人間の生き方だ」、もあり、ミスリードを誘う構成もうまいが、前作同様2時間ドラマ的な進行、会話がちょっと鼻につく。

法廷ミステリーではなく、悲しき復讐劇として読んだ方がいいだろう!?


タグ:柚月裕子

検事の本懐 [book] [柚月裕子]

sample1.jpg柚月裕子/宝島社/お薦め度 ★★★★

大藪春彦賞受賞作

新人検事、任官二年目、佐方貞人の連作短編集。

主人公なのだが、出番の少ない構成。収録されている五編を通じ、いろんな角度から主人公を浮き彫りにしていこうという試み。なかなかのものだ!?

五編のなかでは「罪を押す」がいい。ベテラン検事が見落としたものを主人公が拾う。初心忘れるべからず的な物語。

全体として言えることが、2時間ドラマ、「・・・検事」、「・・・地検の」、的な展開が気掛かり。主人公・佐方がヤメ検弁護士として登場する「最後の証人」に期待したい。


柚月裕子 ブログトップ