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あと十五秒で死ぬ [book] [~'23 国内編]

sample1.jpg榊林銘/東京創元社/お薦め度 ★★★★☆

トリッキーな短編集

ミステリーズ新人賞佳作の「十五秒」、書き下ろしの「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」など四編収録の短編集。

「十五秒」、死神猫がお迎えに、あと十五秒で死ぬ、その間に自分を撃った犯人を明らかにし、復讐することが出来るか?トリッキーな状況設定の事件。

「マトリックス」を彷彿させる?3Dのスロー&ストップの画像、十五秒を数秒ずつ時間を動かす、がぴったりはまっている作品。アイデアの勝利!?

四作目の「首が取れても・・・」は中編作品、「十五秒」をもっとトリッキーに膨らませた作品。

赤兎島の島民は首が取れても死なない体質。首が外れることを首脱という。首脱の重要なルールは首と胴体が十五秒離れると死ぬというものだ。先人の教えによると、満年齢が一歳以上離れた首と体は拒絶反応を起こし交換が出来ない。ちなみに男女間でも首交換は不可能だ。

祭の夜に事件は起きる。神社の倉庫から煙、制服を着た首なしの焼死体が見つかる。島に住む三人の同級生のひとり、克人が襲われ首が転がり、死ぬ寸前に同級生の二人目、公があらわれ、首を十五秒おきに移動させる首お手玉で切り抜ける。そこへ同級生の三人目、智大が応援に駆け付け三人で生きながらえながら犯人探しをするという超トリッキーな話。

「十五秒」と「首が取れても・・・」をくらべると著者の成長ぶりがよくわかる。アイデア、構成力もさることながら謎解き、どんでん返しも実にいい!次作も愉しみにしています。

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たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説 [book] [~'23 国内編]

sample1.jpg辻真先/東京創元社/お薦め度 ★★★★☆

シリーズ第二弾

初めて手にする作家、御歳88の米寿、上梓されたミステリ数は半端ない。しかも「名探偵コナン」の脚本も手がけいるとは恐れ入りました・・・

シリーズ第一弾は「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」、本書にも登場の那珂一兵が主人公らしい。

昭和24年、名古屋を舞台に旧制中学から新制高校の3年に編入させられ、男女共学がスタート、推研、映研のメンバー5人、男2人、女3人、と顧問の代用教員がおりなす青春みすてr。

戦後の名古屋の描写が新鮮?で実に興味深い。彼らがかかわる事件はふたつ、ひとつは密室殺人、もうひとつはバラバラ死体事件。一見本格ミステリぽい設定ではあるが、謎解きより動機が肝。

戦前、声高らかに戦意高揚を唱えていた人物が、昭和20年8月15日の玉音放送を聞かなかったことで起こる、悲しくも腹立たしい事件。それが表題の「たかが殺人じゃないか」。

謎解きは探偵の那珂一兵と推理小説研究部の部長、風早勝利が担当、脇を固める面々は昭和24年だからこそのキャラ立ち、特に「クーニャン」こと咲原鏡子の存在感は群を抜いている。推理小説と映画の話がふんだんに盛り込まれているのも青春ぽい。

表題の一文ありきでこの小説を書きあげる発想力に脱帽!

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殺人都市川崎 [book] [~'23 国内編]

sample1.jpg浦賀和宏/角川春樹事務所/お薦め度 ★★★★

遺作

生まれも育ちも川崎の赤星、高校入学前の春休み、同級生の七海と大師そばの公園でデート中、都市伝説化した奈良邦彦、20年前後藤一家を惨殺して消えた、が突然現れ七海を惨殺する。

生まれは川崎、武蔵小杉に引っ越した愛、赤星の元カノ、大師の近くで殺人事件が起きたことを知る。赤星のことが気になり、後藤一家惨殺事件に強い関心を抱く従弟の拓治と一緒に川崎を訪れる。

赤星の前に再び現れ、両親を惨殺する奈良・・・後藤家、奈良の出身高校を訪れる愛と従弟・・・二つの章が交互に語られ、いつしかシンクロ、とならないところが本書の肝!

その決着のつけ方は型破り!SFと言おうか、スパイ小説と言おうか・・・

川崎と武蔵小杉、同じ川崎市なのに一線を画す二つの街を逆手に取ったとでも言うべき小説。「翔んでさいたま」的!?

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medium 霊媒探偵城塚翡翠 [book] [~'23 国内編]

sample1.jpg相沢沙呼/講談社/お薦め度 ★★★★

「このミス・・・」2020年版国内編一位

第一話から第三話は推理作家、香月史郎と後輩を通じ知り合った霊媒、城塚翡翠が力、心霊と論理、を組み合わせ、真実を導き出す連作。

それと共に、インタールード(間奏)ⅠからⅢに、一切の証拠を残さないシリアルキラーの話が並行して語られる。

そのふたつが第四話で一転、第一話から第三話がすべて伏線と化す。ここが本書の一番の肝。

「このミス・・・」国内編一位、本格ミステリー国内編一位、昨年二冠を達成した一冊。確かに第四話でそれまでの物語をすべて伏線にしてしまう荒技は凄いが、第一話から第三話までの謎解きが少々物足りない!?

キーワードは「霊媒探偵城塚翡翠」、これを失念しなければ意外と騙されないかもしれない・・・


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刀と傘 [book] [~'23 国内編]

sample1.jpg伊吹亜門/東京創元社/お薦め度 ★★★★

ミステリーズ新人賞を含む連作短編集、「このミス・・・」2020年版国内編5位

尾張藩公用人、鹿野師光、佐賀藩から出京した、後の初代司法卿、江藤新平をホームズとワトソン役に配し、大政奉還から佐賀の乱までの動乱の時代を活かした趣向をそそるミステリー。

特に、最後の「佐賀の乱」は作者としてはしてやったりの一作。新政府内での軋轢で司法卿を辞した江藤新平、そのまま佐賀へ帰せば新政府への不満分子の受け皿になる。それを何とか阻止するよう命じられた鹿野師光がとった武士らしい?驚愕の行動とは・・・

なかなかいけてる一冊、次作を期待したいものです。

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天空への回廊 [book] [~'23 国内編]

sample44.JPG笹本稜平/光文社/お薦め度 ★★★★☆ 

エンターテインメント!

エベレスト、8848m。

2001年1月21日AM8:40、真木郷司はチベット側の北稜ルートからエベレストの冬季・無酸素・単独登頂を成功させ、荷物をまとめ、慎重に下降しはじめた。

幸いにも無風状態は続き、8100mまで降りたときだった。大気を切り裂くような金属音が聞こえた。風の音ではない。雪崩の音とも違う。どちらかといえばジェット機のエンジン音に似ている。轟音がさらに高まり、オレンジ色の火の玉が黒い煙の尾を引いて、猛烈な速度で目の前を横切った。

その衝撃による雪崩によって何人かの犠牲者が出た。郷司の友人、マルクも行方不明だという。

謎の物体は1980年代に打ち上げられたアメリカの軍事偵察衛星だった。プルトニュームを燃料とする小型原子炉を積んでいるため、落下地点は汚染されている可能性がある。

合衆国政府と中国側との間で政治的にややこしい取引が成立した。エベレスト北西面での回収作業を黙認する。期間は三週間というものだった。

郷司はマルクの捜索もできると判断、回収作業に参加する。

一方、マルクは意識不明のまま救出され病院に収容される。そこでまた事件が起きる。マルクが何者かによって命を狙われる。その時、意識不明のマルクの呟き、「ブラックフット」。

米ソ冷戦構造の遺物、ブラックフット。衛星本体の精密カメラとコンピューターによって、宇宙空間から地表の目標をピンポイント攻撃できる究極の宇宙兵器。ブラックフットのランチャーそのものが標高8000mの烈風と寒気に曝されている。

山岳冒険小説と陰謀ゲームが複雑に絡み合い物語は進行する。クライマックスの壮絶な苦闘、不屈の闘志に涙がこぼれた。

2002/04


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時の渚 [book] [~'23 国内編]

sample190.JPG笹本稜平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★☆  

サントリーミステリー大賞受賞作

淡々とした語り口、リズムのいい展開。最後の最後にドンデン返・・・

元刑事、今は探偵の茜沢は死期まじかな老人・松浦から生まれてまもなく他人に預けた息子を探しだすよう依頼される。

それは35年前、西池袋の小さな公園だった。赤ん坊を託した女の歳は30を少し過ぎくらい。要町で居酒屋「金龍」をやっている。亭主は売れない絵描き。練馬に住んでいて暮らし向きはそう悪くないと言っていた。

茜沢も忌まわしい過去を背負って生きていた。西葛西で起きた夫婦殺害事件の犯人が茜沢の妻と息子を撥ね逃走。容疑者として浮かび上がったのは、殺害された夫婦の一人息子・駒井昭伸だった。しかし、犯人のものと思われる毛髪は両親のいずれのDNAパターンも含まなかったことから、昭伸に対する捜査は打ち切られた。

人探しの糸は少しづつほぐれていく。

その一方、西葛西夫婦殺害事件の犯人が動いた。六本木のラブホテルで殺害された女子高生の遺体から採取された体液は西葛西の犯人のDNAと一致した。

茜沢の周りに配置された人物の温かさと結末の「血」の因縁があまりにも対照的。ラストはしっかり泣かせてくれます。

2001/05

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ネバーランド [book] [~'23 国内編]

sample72.JPG恩田陸/集英社/お薦め度 ★★★★

切なくほろ苦い青春ミステリーの金字塔!

男子校の寮「松籟館」で年越しをすることになった居残りぐみの3人。美国、寛司、光浩。それに押しかけぐみの統をあわせた4人。告白と事件を通じて明らかになるそれぞれの秘密とは・・・

書評のかわりに著者のあとがきを紹介します。

書く前に4人の少年たちの性格づけをしていたつもりだったのに、4人を完全把握できたなと思ったのは4日目を書いている時だった。

今ではくっきりと、映画のラストのタイトルロールのように4人のそれぞれ特徴ある表情が頭に浮かぶ。

4人とも可愛いけれど、書いていて楽しいのは統だった。光浩は書いているうちに陰惨な過去を背負っていることが分かってしまい、済まなく思っている。

寛司は私が男だったらこんな男になりたいという理想。こうして見ると、語り手の美国はいい奴だがまともすぎて、書いていて物足りなかったかもしれない。

この小説は、私にとって個人的に重要な小説だと思っている。私が将来、もう少し成長した時に書きたい小説の原型になりそうな予感がする。この小説を直している時、もしかすると小説を書くことは面白いのかもしれない、と初めてほんの一瞬ちらっと感じた。

200/07


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月の裏側 [book] [~'23 国内編]

sample34.JPG恩田陸/幻冬舎/お薦め度 ★★★★☆

恩田ホラーの最高傑作!?

えっ?退治するって?あれを?いったいどうして?月に行くのよ。月の向こう側に。そうすれば月の引力があいつらを引き寄せる・・・

・・・舟はゆっくりと無人の街の中へ漕ぎだしていった。滑るように音もなく。フィルムを巻き戻すかのように懐かしい時間の中へと・・・

「もうじき帰ってくるしね―いつもちゃんと誰かが帰ってきたよ。そういうものだから、いつも待っていたよ。騒いでも、じたばたしてもしょうがない」
「ふうん」
どれくらいの人が待っているのだろうか。みんなこんなふうに穏やか目をして、帰ってくる人を待っているのだろうか―僕たちはいったい何を待っているのか―
柳の木の枝がゆらゆらと揺れていた。

カバーの絵にこんな台詞をつけたら少し輪郭がわかるかな!?正に「恩田ホラーの最高傑作」です。

2000/05

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硝子のハンマー [book] [~'23 国内編]

sample12.jpg貴志祐介角川書店お薦め度 ★★★☆ 

初の密室ミステリー

2002年末の宝島社・インタビューには、「・・・現在、密室ものの『硝子のハンマー』にとりかかっています。なんとか年内の脱稿できればと思っております・・・」。

同じく2003年末の宝島社・インタビューでも、「・・・初の密室ミステリー『見えない扉』は、十月二十日現在、六百枚を少し越えたところです。毎年毎年、今にも出版しそうな予告をしながら、いまだに脱稿できていないのは、お恥ずかしい限りですが、あと少しだけ、お待ちいただければと思います・・・」

『硝子のハンマー』と『見えない扉』は題名こそ違い同じ作品ではないだろうか。四年半を費やした力作・・・!?

さらにインタビュー記事を読み進むと、「・・・『見えない扉』ですが、途中で犯人を変更したため、信じられないほど時間を費やしてしまいました・・・」。いったい最初の犯人はだれだったのか?そちらの方が気になってしまいます。

「黒い家」でホラー大賞を受賞、その後、「天使の囀り」、「クリムゾンの迷宮」、「青い炎」と順調だったと思います。しかし、そこからが難産だったようです。本書刊行まで四年半、路線変更?がうまくいかなかったようです。本書でも介護ザル、介護ロボットというホラー的な展開を匂わせる道具を登場させるのですが、密室ミステリーにこだわったためどっちつかずの小道具になってしまいました。残念!

2004/05

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