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天空への回廊 [book] [~'23 国内編]

sample44.JPG笹本稜平/光文社/お薦め度 ★★★★☆ 

エンターテインメント!

エベレスト、8848m。

2001年1月21日AM8:40、真木郷司はチベット側の北稜ルートからエベレストの冬季・無酸素・単独登頂を成功させ、荷物をまとめ、慎重に下降しはじめた。

幸いにも無風状態は続き、8100mまで降りたときだった。大気を切り裂くような金属音が聞こえた。風の音ではない。雪崩の音とも違う。どちらかといえばジェット機のエンジン音に似ている。轟音がさらに高まり、オレンジ色の火の玉が黒い煙の尾を引いて、猛烈な速度で目の前を横切った。

その衝撃による雪崩によって何人かの犠牲者が出た。郷司の友人、マルクも行方不明だという。

謎の物体は1980年代に打ち上げられたアメリカの軍事偵察衛星だった。プルトニュームを燃料とする小型原子炉を積んでいるため、落下地点は汚染されている可能性がある。

合衆国政府と中国側との間で政治的にややこしい取引が成立した。エベレスト北西面での回収作業を黙認する。期間は三週間というものだった。

郷司はマルクの捜索もできると判断、回収作業に参加する。

一方、マルクは意識不明のまま救出され病院に収容される。そこでまた事件が起きる。マルクが何者かによって命を狙われる。その時、意識不明のマルクの呟き、「ブラックフット」。

米ソ冷戦構造の遺物、ブラックフット。衛星本体の精密カメラとコンピューターによって、宇宙空間から地表の目標をピンポイント攻撃できる究極の宇宙兵器。ブラックフットのランチャーそのものが標高8000mの烈風と寒気に曝されている。

山岳冒険小説と陰謀ゲームが複雑に絡み合い物語は進行する。クライマックスの壮絶な苦闘、不屈の闘志に涙がこぼれた。

2002/04


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時の渚 [book] [~'23 国内編]

sample190.JPG笹本稜平/文藝春秋/お薦め度 ★★★★☆  

サントリーミステリー大賞受賞作

淡々とした語り口、リズムのいい展開。最後の最後にドンデン返・・・

元刑事、今は探偵の茜沢は死期まじかな老人・松浦から生まれてまもなく他人に預けた息子を探しだすよう依頼される。

それは35年前、西池袋の小さな公園だった。赤ん坊を託した女の歳は30を少し過ぎくらい。要町で居酒屋「金龍」をやっている。亭主は売れない絵描き。練馬に住んでいて暮らし向きはそう悪くないと言っていた。

茜沢も忌まわしい過去を背負って生きていた。西葛西で起きた夫婦殺害事件の犯人が茜沢の妻と息子を撥ね逃走。容疑者として浮かび上がったのは、殺害された夫婦の一人息子・駒井昭伸だった。しかし、犯人のものと思われる毛髪は両親のいずれのDNAパターンも含まなかったことから、昭伸に対する捜査は打ち切られた。

人探しの糸は少しづつほぐれていく。

その一方、西葛西夫婦殺害事件の犯人が動いた。六本木のラブホテルで殺害された女子高生の遺体から採取された体液は西葛西の犯人のDNAと一致した。

茜沢の周りに配置された人物の温かさと結末の「血」の因縁があまりにも対照的。ラストはしっかり泣かせてくれます。

2001/05

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Iの悲劇 [book] [米澤穂信]

sample1.jpg米澤穂信/文藝春秋/お薦め度 ★★★★☆

連作短編集

地権者と交渉して空き家を貸す了解を取り付け、その家を定住希望者に格安で提供し、新生活全般をサポートして、もっと蓑石を甦らせる。課長の西野秀嗣。新人の観山遊香。そして満願寺邦和の三人が、南はかま市Iターン支援推進プロジェクト、「甦り課」、の全メンバーになる。

この四月、開村式前に久野さんと安久津さんが移住してきたが、火災が原因で安久津さんは夜逃げ同然で蓑石を去り、久野さんも出て行った。

開村式ごの五月、事業を興そうとして最初の一歩でつまずいた牧野さんが引き上げていった。七月には立石家の未就学児童が迷子になり、久保寺さん宅の地下で動けなくなっているのが見つかった。久保寺さんはよその子供の命を危険にさらしたことに責任を感じ、立石さんはにわかに蓑石を救急体制に不安を覚えて、それぞれ蓑石での生活をあきらめた。

そして十月、秋祭りの際に食中毒事件が発生し、キノコを提供した上谷さんと食中毒に遭った河崎さんが引っ越した・・・

一癖?ある移住者が蓑石に来たは去っていく。その後も謎のトラブルは発生し続け、蓑石には誰もいなくなった!?

表題は「Iの悲劇」だが、なぜか終章は「Iの喜劇」、悲しくもあり捻りのきいた終章。さすが短編の名手、米澤穂信!

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1793 [book] [~'23海外編]

sample1.jpgニクラス・ナット・オ・ダーグ/小学館/お薦め度 ★★★★

歴史ミステリー

1793年のスウェーデン、1789年に勃発したフランス革命の潮流を恐れ、国王、グスタフ三世は絶対王政を敷いた。その結果、貴族階級からの不満が募り、オペラ座で暗殺されたのは1792年。翌年、1793年、フランスではマリー・アントワネットが処刑された。

物語は四部構成、湖で両手、両足を削がれた死体が発見される。死体を引き揚げたのは退役軍人で義腕の引っ立て屋、カルデル。彼を捜査の相棒に使命したのは、ストックホルム警視庁の警視総監の友人で法律家のヴィンゲ。

二部と三部は物語が殺人事件とかけ離れた?医師見習いを志して上京した青年の話と果物売りの少女の話となり、四部で一部から三部が結びつく構成。ちょっと気を持たせる構成ではあるが、1793年の時代が物語を興味深いものにしている。

余命幾ばくもないヴィンゲと荒くれ者のカルデルのコンビが実にいい。歴史ミステリーファンにとってはたまらない一冊。次作は「1794」らしい、三部作、ので期待したい・・・

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千里眼 ミドリの猿 [book] [松岡圭祐]

sample13.JPG松岡圭祐/小学館/お薦め度 ★★★★

シリーズ第二弾

内閣官房長付首席精神衛生官となった岬美由紀、彼女が巻き込まれた新たな事件とは・・・

「千里眼」三部作の第二弾!次回へ続くわけでだから、少々フラストレーションが溜まることはご容赦ください。

「ジフタニアのODA」の事前視察に同行した美由紀が見たものは、兵器と戦災者を隠し、視察コースだけ平和にみせかけていた相手国の姿。視察がひきあげるのを待っていたかのように攻撃をしかける政府軍。さっき立ち寄った村に火柱があがる。攻撃ヘリが二機低空を旋回している。「子どもたちが・・・」と思った瞬間、美由紀は操縦桿を握っていた(前作では優秀な航空自衛官だったわけだから・・・)。

帰国後、一ヶ月の謹慎処分を言い渡される美由紀。処分理由を確認するため永田町へ。そこには政府官僚たちが揃っていた。「ジフタニアのODA」中止に過剰反応した中国全土では二億人規模の集会が催され、軍により戒厳令が敷かれていた・・・

ここから物語はエンジン全開。マインドコントロールされている人たちが織りなすサイコサスペンス。

2000/03

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イヴリン嬢は七回殺される [book] [~'23海外編]

sample1.jpgスチュアート・タートン/文藝春秋/お薦め度

give up!

ハードカースト家の二男が殺されて19年、両親は事件が起こった場所で、あの日ここにいたまったく同じ客を招待した。

そんな館にわたしはすべての記憶を失ってたどり着き、黒死病医師からある提案を持ちかけられる。今夜の舞踏会で人、イヴリン嬢、ハードカ―スト家の長女、が殺される。殺人には見えないから犯人は捕まらない。この非道を正せば、君に出口を示してやろう、と・・・

また、この日はハ回繰り返され、初日は麻薬の売人のドクター、二日目は執事、三日目は遊び人・・・君は八人の異なる宿主の目を通じて見ていくことになる。

タイムループと人格移転!

プロットとしてはとても興味深いものなのだが、わたしの頭の中もタイムループ?してしまい、なかなか頁をめくる手が進まない。返却期限も迫り、泣く泣く?give upとあいなりました。

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ネバーランド [book] [~'23 国内編]

sample72.JPG恩田陸/集英社/お薦め度 ★★★★

切なくほろ苦い青春ミステリーの金字塔!

男子校の寮「松籟館」で年越しをすることになった居残りぐみの3人。美国、寛司、光浩。それに押しかけぐみの統をあわせた4人。告白と事件を通じて明らかになるそれぞれの秘密とは・・・

書評のかわりに著者のあとがきを紹介します。

書く前に4人の少年たちの性格づけをしていたつもりだったのに、4人を完全把握できたなと思ったのは4日目を書いている時だった。

今ではくっきりと、映画のラストのタイトルロールのように4人のそれぞれ特徴ある表情が頭に浮かぶ。

4人とも可愛いけれど、書いていて楽しいのは統だった。光浩は書いているうちに陰惨な過去を背負っていることが分かってしまい、済まなく思っている。

寛司は私が男だったらこんな男になりたいという理想。こうして見ると、語り手の美国はいい奴だがまともすぎて、書いていて物足りなかったかもしれない。

この小説は、私にとって個人的に重要な小説だと思っている。私が将来、もう少し成長した時に書きたい小説の原型になりそうな予感がする。この小説を直している時、もしかすると小説を書くことは面白いのかもしれない、と初めてほんの一瞬ちらっと感じた。

200/07


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月の裏側 [book] [~'23 国内編]

sample34.JPG恩田陸/幻冬舎/お薦め度 ★★★★☆

恩田ホラーの最高傑作!?

えっ?退治するって?あれを?いったいどうして?月に行くのよ。月の向こう側に。そうすれば月の引力があいつらを引き寄せる・・・

・・・舟はゆっくりと無人の街の中へ漕ぎだしていった。滑るように音もなく。フィルムを巻き戻すかのように懐かしい時間の中へと・・・

「もうじき帰ってくるしね―いつもちゃんと誰かが帰ってきたよ。そういうものだから、いつも待っていたよ。騒いでも、じたばたしてもしょうがない」
「ふうん」
どれくらいの人が待っているのだろうか。みんなこんなふうに穏やか目をして、帰ってくる人を待っているのだろうか―僕たちはいったい何を待っているのか―
柳の木の枝がゆらゆらと揺れていた。

カバーの絵にこんな台詞をつけたら少し輪郭がわかるかな!?正に「恩田ホラーの最高傑作」です。

2000/05

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いけない [book] [道尾秀介]

sample1.jpg道尾秀介/文藝春秋/お薦め度 ★★★★

本格ミステリ!?

第一章、死んだのは誰?第二章、なぜ死んだの?第三章、罪は誰のもの?終章、わかった?

三つの章で起きた事件の伏線を最終章で順番に拾っていく本格ミステリ仕立て!?

それにしても第一章から三章まですべて中途半端な結末、少々フラストレーションのたまる展開、我慢に我慢を重ね終章へ。確かにはっきりしない伏線を拾っていくのだが、完璧に拾いきれていない。今村昌弘(「屍人荘の殺人」、「魔眼の匣の殺人」)の方がなんぼかいい!

評判が高かった、「王様のブランチ」、だけに少々残念・・・

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