虹の谷の五月 [book] [~'23 国内編]
船戸与一/集英社/お薦め度 ★★★★★
直木賞受賞作
フィリピン人と日本人との混血・ジャピーノ。おいらの名前はトシオ・マナハン。みんなはおいらをジャピーノと呼ぶ。
舞台はフィリピン・セブ島。おいらしか知らない虹の谷で起こった三年間の物語。それはおいらが十三歳のときから始まった・・・
十三歳の五月、ここガルソバンガ地区にシルビア・ガラン・オオシタが戻ってきた。二十一年まえ日本人画家と結婚。その夫は一年半ほどまえに脳隘血で死んだ。どうしてもやらなきゃならないことがふたつあるからと帰ってきた。ひとつは故郷のために役立つことをする。もうひとつは言わない、と。
おいらはシルビアと四人の男を一万ペソで虹の谷に案内するはめになった。虹の谷にはリベルタ婆さんの息子、ホセ・マンガハスがひとりで暮らしている。ホセは新人民軍の副指揮官だったらしいが、何かの理由で十二、三年まえに新人民軍から追放された・・・
ホセにあったのは二年前だ、ときどきリベルタ婆さんの使いでラム酒と煙草を届けにいっていた。
どうせ太っているシルビアだから虹の谷まで、一日じゃ登れないだろう。途中でホセのところまでラム酒と煙草を持っていけばいいやと思って出発した。
事件は次の日に起きた。いつもの洞窟で待っても待っても、ホセは戻ってこなかった。あきらめて洞窟を踏み出そうとした瞬間、ぱん!ぱん!と弾ける音がたてつづけに響いた。理由はわからないが、ホセと四人が戦い始めた。
ホセは一対四の劣勢にもかかわらず戦った。おいらがへまをしなければ勝っていたはずだった・・・
捕まったホセに向け、
「そうだよ、シルビアだよ。おまえを追いかけてガルソンガ地区からネグロス島での闘いに馳せ参じたあのシルビア・ガランだよ」
「けどね、あたしがおまえを殺すのはおまえに捨てられたからじゃない」
「なら、何だ」
「闘ってるからだよ」
「男だろうと女だろうと、闘いを忘れた人間は羽をもがれた蝶と同じなんだ。どんな贅沢をしても翔ぶことはできない。あたしが安穏と暮した二十年間を嘲笑うようにセブ島で闘いつづけた。それが赦せないだよ、それが!」
おいらにはよくわからなった。シルビアはホセの足もとに向け引鉄を引き続けた。
「これから、あたし、あまえのことなんか気にしないで生きていくことにするよ」
「さあ、とっとと消えておくれ」
「今度はほんとうの別れの言葉だ」とシルビアは虹の谷を後にした。
おいらは虹の谷で起きたことは誰にも喋らなかった。十三歳の五月は終わった。十四、十五歳と成長していく少年の様を描いた感動巨編。直木賞に値する一作。
2000/08
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