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残虐記 [book] [桐野夏生]

桐野夏生/新潮社/お薦め度 ★★★★☆

前作、「グロテスク」は「東電OL殺人事件」を、本書、「残虐記」は「新潟女性監禁事件」を下敷きに描かれた作品。

本書のキーワードは「ストックホルム症候群」
1973年、ストックホルムで銀行強盗が人質をとり、立てこもります。6日後に人質は解放されますが、不思議なことに人質の中には犯人に対して良い感情を持ってしまう人々がいました。犯人と人質の間に生まれるこの奇妙な感情は、後にストックホルム症候群と呼ばれるようになりました。

今回の事件でも、これに似たことが起きてしまったのかもしれません。大きな不安や恐怖の中で、ほんの少しでも親切にされると、理屈には合わないのですが、犯人に感謝の気持ちのようなものを感じてしまうことがあります。

9才で誘拐された少女にとっては、この犯人に頼るしか、生きる方法はなかったでしょう。このようにして本来持っていた自由な心が奪われると、逃げられるチャンスがあっても逃げることができなくなることはあるでしょう

主人公は「小海鳴海」というペンネームを持つ小説家。現在、三十五歳。デビューは早く、高校一年の終わりの十六歳の時だった。私は十歳の時、安倍川健治という名の二十五歳の工員に誘拐拉致され、安倍川健治の自室に一年間監禁された。ケンジには余罪があったため、精神鑑定を経た後の裁判で無期懲役という厳罰が下された。

ケンジの手紙に、私の受けた衝撃は、犯人に「ゆるしてくれなくてもいいです。私も先生をゆるさないと思います」と、書かれていたことだけではなかった。二十五年ぶりによみがえってくる事件の「被害者」の感覚だった。

「残虐記」と名づけれた原稿を残し、失踪する作家。自ら封印したはずの事件が生々しくよみがえる。何が彼女をして事件を回想させ、かつ失踪させたのか・・・

「すごみを増す」という言葉がぴったりな最近の桐野!


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