八百万の死にざま [book] [ローレンス・ブロック]
ローレンス・ブロック/早川書房/お薦め度 ★★★★☆
アメリア私立探偵作家クラブ賞受賞作
マット・スカダー・シリーズ第五作
エレインの知り合いの娼婦キムから足を洗いたいので仲介をしてほしいと頼まれるスカダー。ヒモのチャンスは以外にもすんなりとキムの願いを受け入れた。
そのキムがホテルで惨殺される。ナタ?のようなもので・・・
スカダーはチャンスの犯行ではないかとジョー、刑事、に情報をリークする。しかし、チャンスは完璧なアリバイを有していた。
意外にも、スカダーはチャンスからキム殺害の犯人探しを依頼される。
1980年代、警察官が大幅に減らされ、ニューヨークの治安は最悪なものになっていた。そんな時代背景を元にジョーがかつて刑事だったスカダーに酒を飲んでくだをまく。ニューヨークに住むみんな、八百万人、にはそれぞれの死にざまがある、と。
本書は初期の作品なので、エレインとの大人の無駄話はまだない・・・
タグ:PWA賞
この「八百万の死にざま」は、マット・スカダーシリーズの5作目。
事件そのものよりも、スカダーとアルコールとの闘いが主軸となった作品だ。
この作品のスカダーは、完全にアル中であり、病院にも2度収容されて解毒処理を受けています。
医者からもアルコールをやめなければ死ぬと言われ、自らAAにも通い始めているのですが、しかし、物語の始めの方では、まだそのことをそれほど深刻に考えようとはしていません。
しかし、アルコールへの恐怖だけは、スカダーの心の奥底にしっかりと根付いており、彼は自分への戒めのように繰り返し禁酒しようとするのです。
アルコールをめぐる葛藤が、事件の捜査と絡み合って絶妙。
スカダーは、元々綺麗事だけの人間ではありませんし(人がくれるものはもらっておくという信条)、アルコールに関しても、犯罪的な罪に関しても、元々限りなくグレーゾーンにいる人間なのですが、その微妙なバランスが崩れた瞬間、とでも言えばいいでしょうか。
アルコールに関しては、自身の罪に関するグレーゾーンが、恐らくかなりの影響を持っているのだとは思いますが------。
警官をやめるきっかけとなった事件が起きた時に、はっきりと罰せられていたら、今頃また全然違う人生を送っていたのでしょうね。
そして、恐らくニューヨークという街自体も、グレーゾーンの部分が占める割合が限りなく大きいのでしょう。街角の描写までもが、印象的に感じられます。
しかし、それだけに物語のラストは感動的です。
スカダーシリーズの1つのターニングポイントになる重要な作品だと思います。
by オーウェン (2023-11-12 17:01)