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はぐれ牡丹 [book] [山本一力]

山本一力/角川春樹事務所/お薦め度 ★★★★

日本橋両替商の跡取り娘・一乃が深川の裏店に暮らして五年、夫・鉄幹が茂林寺から受け取る寺子屋の給金ではままならぬため野菜の棒手振を始めて二年がすぎている。今日も息子・幹太郎を連れて野菜の仕入れに行く。

二十五年前、裏店は二棟六軒を普請した。お加寿は店開きからの店子で、越してきた翌日から産婆を始めた。当時のお加寿は二十三歳。眉と瞳がくっきりと黒く、絣の襟元をわずかに崩した着こなしには隠しようのない艶があった。

両親を斬り殺されたのは、分吉が十四、おあきが九歳の冬だった。まわりの情けに支えられて兄妹はなんとか立ち行けたが、食べるだけで精一杯だ。左官仕事の股引一枚、新しいものを買うゆとりはなかった。それを助けたのがお加寿である。おあきを手元で使い、こどもが稼げる手間賃のうえの給金を払った。

毎日、野菜を仕入れるおせきの竹薮で、一乃が一分銀を拾うところから事件が始まる。当時の一分銀は銀十五匁、千二百五十文の値打ちがあり、鉄幹の給金ひと月ぶん近い大金である。一乃が違和感を覚えた一分銀は実家の本多屋に持ち込まれ吟味され、贋金だと指摘された。

おかねの産後の具合があまりよくないことに重ね、亭主の清吉が顔をださない。分吉とおあきが清吉の宿で見つけたのは紙縒りで綴じた本だった。ふたりはそれをおかねへもとに持ち帰る。

贋金、依然行方不明の印判職の清吉、忽然と連れ去られるおあき・・・事件はあらぬ方向へ向う。

一力は題名の「はぐれ牡丹」のために粋な物語を用意してくれた。わたし的には泣ける一冊。主役の一乃ではなく脇役の人情話を題名にするところなんて憎い演出!

さまざまな過去を背負いながら、明るく、助け合い、一生懸命生きている裏店の人情話。一力マジック全開なり!


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