あかね空 [book] [山本一力]
山本一力/文藝春秋/お薦め度 ★★★★★
わたし的には、今、時代劇を書かせたら一番巧いのは宮部みゆきだと思っています(ミヤベのファンということを差し引いても)。そのミヤベに勝るとも劣らない名手があらわれました。その名は山本一力(いちりき)!
江戸で一旗あげようと新兵衛店(しんべいだな)に京から下ってきた豆腐職人の永吉。店賃の交渉の後押しや、宿が決まって安心した永吉を晩ごはんに招いたのは同じ長屋のおふみだった。おふみの父・源治、母・おみつも永吉の身の上を聞き、仲良くさせてもらうと言ってくれた。
次の日から豆腐屋、「京や」を始める準備が始まった。その手助けは源治とおふみの仕事だった。京の豆腐は江戸前の木綿豆腐とくらべ柔らかく、売るのは骨だと思われたが、初日に作った百丁はすべて売り切れた。しかし、次の日から売れ残る毎日が続くことになる。おふみの思案で、残った豆腐はご喜捨させてもらうことにした。
永吉に行き別れになった息子への思いを重ねる相州屋の女将。その思いがふたりの運命を左右することになる。
後半は永吉とおふみ、三人の子供たち、長男・栄太郎の借金、跡取り問題が絡み合い、それぞれの運命を翻弄する。
身体が大きく、飯をたくさん食うことが疎んじられ、間引き同然で奉公に出された永吉の親に対する思い。天神さまの境内から連れ去られ、賭場で生身の人間相手に、殺生ぎりぎりの稼業を続ける傳蔵。賭場の借金を重ねる長男・栄太郎・・・
永吉、おふみ、榮太郎、次男、長女、傳蔵、それぞれの視線からそれぞれの思いが丁寧に綴られ、クライマックスへと向う。
時代小説の心が十分に伝わる一冊。「巧いのひと言!」
タグ:直木賞
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