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動機 [book] [横山秀夫]

横山秀夫/文藝春秋/お薦め度★★★★★

ややもすると短篇の評価は低いようであるが、作家にとって短篇の方が難しいと聞く・・・本書には四篇の作品が収められている。その中のひとつ「動機」。

U署で三十冊の警察手帳が盗まれた。この一括保管を起案したのは県警本部警務課企画調査官、警視、貝瀬正幸。手帳の紛失を根絶するための方策が、かってない大量盗難事件を招き寄せてしまった。

内部犯行説に刑事部及び警備課が内偵を開始。貝瀬に与えられて時間は二日間。巡査時代、貝瀬もこのU署で二年間世話になっていた。

手帳の保管責任者は、U署警務課主任、大和田徹。巡査部長。五十九歳。「軍曹」、「曹長」とあだ名されるJ県警きっての堅物だ。

退官が秒読みとなった警察官の内面の「揺らぎ」を貝瀬は嫌というほど見てきた。疑ったわけではないが、「軍曹」の退官はやはり気になる。

妻とのなにげない会話。子供が床にこぼした絵の具をごまかすために、バケツの水をぶちまけた。その構図だった。一冊の手帳紛失を隠蔽するために、二十九冊の手帳を盗んだ・・・

午後十一時、貝瀬は大和田家を訪ねた。「手帳を盗んだ犯人がわかりました」、「犯人は名乗りませんでした。しかし、動機は言いました。主任が憎かったのだそうです。手帳を盗めば保管責任者の主任が困る。だからやったのだと言っていました」
「しかし、怖くなった。手帳を返したい。ただし、主任の手帳は破り捨てた。返せるのは二十九冊だと言いました」
見送りに出た大和田は、一つ息をつき、感慨深そうに言った、「父上も立派な方でしたが、あなたも負けずに立派な警察官になられましたな」

翌日、警察手帳は発見された。二十九冊ではなく二十八冊・・・ないのは大和田主任と若い巡査のだった。


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