柳広司/角川書店/お薦め度 ★★★★
スタイリッシュなスパイ小説
死ぬな。殺すな。とらわれるな。
スパイ養成学校を率いる「魔王」こと結城中佐。彼の命を受けての諜報活動、スパイとして成果を上げる養成員たちの連作短編集。
昭和13年、舞台は東京、きな臭い時代、憲兵隊が見つけることの出来なかった親日家外国人のスパイとしての確たる証拠を見つけ、指令官の陰謀を暴きだす表題作にはまってしまう!
一種、「ミッション・インポッシブル」的なカッコよさを備えた小気味いい一冊。
追伸:本年度の短編集では「傍聞き」/長岡弘樹/双葉社もなかなかの出来ばえでした。短編ファンにはこちらもお薦めです。
2008-12-30 17:44
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柳広司の作品は、なぜだか、今まで避けていたが、読んでみると、どの作品もこれが本当に面白い。
読んで考えてみたのだが、そういえば今までスパイ小説などというものを読んだ事があっただろうか?
海外作品であれば、そういったものを読んだような気もするのだが、国内作品ではあまりなかったような気がする。
それがこのような形で、しかも本格的なスパイ小説というものを見事に書き上げた作品が、現代に現れたのだから、新鮮に感じられてしまうのも当然のことなのかもしれない。
そして背景のみにとどまらず、それぞれの短編がスパイというものを非常に詳細に描いた良作として完成されている。
「ジョーカー・ゲーム」は、敵対する人物との頭脳戦のみならず、陸軍士官とD機関の訓練生との駆け引きまでもが描かれた内容になっている。
「幽霊」というこの2作目にして、本格的なD機関のスパイ活動が描かれている。
「ロビンソン」は、スパイということが、敵に暴かれた場合のスパイがとるべき行動について描かれた作品。
「魔都」も「幽霊」と同様D機関の活躍が、別の人物の視点を通して描かれた作品。
「XX」はスパイ活動における“とらわれる”という行為と、D機関のある訓練生の苦悩について描かれている。
普通の作品と異なり、このシリーズの特徴は、主人公たるD機関の生徒たちがスパイであるがゆえに、没個性となっていることである。
ゆえに、登場人物はその都度、代わり、仮にもう一度同じ人物が登場してきたとしても、それが誰かはわからないような書き方となっている。
そういったこともあり、長編化するのは難しい題材なのかもしれないが、この作品のような短編集という形では充分に機能している作品なのである。
まだこれからもこの“D機関”シリーズは続いていくようであるが、今後も読み続けずにはいられない作品であることは確かである。
このシリーズが、今後どのような展開を見せ、どのように変貌を遂げていくのか、楽しみに追っていきたい。
by オーウェン (2023-11-12 16:50)