SSブログ

終戦のローレライ[book] [お気に入り作家(国内)]

福井晴敏/講談社/お薦め度★★★★★

福井晴敏の太平洋戦争総括。

日本に対するふたつの憂い。ひとつは朝倉良橘、軍令部第一部第一課長、大佐、45歳。もうひとつは折笠征人、戦利潜水艦(伊507)乗務員、上等工作兵、17歳。

「分限をわきまえない企業活動、その下僕となって消費に踊らされる大衆・・・・。最低限の道徳も失った混沌が日本を支配する。唯一、それを律せられるのは、道徳観念を基本に置いた国民性だ。国家という総体が示し得る正義だ。その点、多民族国家の米国はぎりぎりの線を保っている。個々の自由と権利を謳いながら、開拓者精神、自治の美徳で相対の正義を語り、それを維持するための個の犠牲は英雄視される。日本人がこの強かさを手に入れ、個と全のよりよい協調関係を築くには、今ある幻を打ち砕かねばならん。拠って立つものを自らの手で壊し、自分の足で立つことから始める必要がある。新しい国民性を確立するための代償がいるんだよ。・・・つまり、国家としての切腹を断行せねばならんということだ。この国が迎えるべき終戦の方だよ」

「あんたたち大人が始めたくだらない戦争で、これ以上人が死ぬのはまっぴらだ・・・!あなた(朝倉大佐)の言っていることが正しいのかどうかはわからない。でもこれだけは言える。東京がなくなろうが、大本営が焼かれようが、その程度で人の心が変わるなんてことはあり得ない。あなたのやろうとしていることは、パウラ(ローレライ)を薬で白人にしようとしたナチスのバカな科学者と同じだ。頭でっかちで、自分の都合のいいようにしか物事を見ようとしない。自分が魂を売ったからって、他人もそうするって勝手に決め込んでいる偏屈な臆病者だ・・・清永だって、艇長だって、逃げなかった。最後まで恥ずかしくなく生きようとして、それで死んでいったんだぞ!辛いことや悲しいことを我慢して、これでいいのかなんてろくに考える暇もなくて、やれることをやって死ぬしかなかったんだぞ!それを無知だって見下げるのか!?そんなふうにしか生きられない大勢の人を殺して、国の将来のためだって言うのか!?冗談じゃない。そんな理由で清永を殺したのなら、おれはあんたを許さない。絶対に、許されないぞ・・・!」

映画の原作として依頼された作品。そのため視覚的にSFチックなローレライ(読んでのお楽しみ・・・)を登場させ物語を進行。道具立ては別にして、実に骨太な作品。怒涛の上下巻!


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0